5つの「重点投資」先
代わりに、以下の政策的優先項目が「重点投資」先として表現されている。
- 人への投資と分配
- 科学技術・イノベーションへの重点投資
- スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進
- GX(グリーン・トランスフォーメーション)及びDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資
このうちGXとDXは似て非なるものなので、結局は5つの「重点項目」が示されたことになる。
破局から学ぶ
ここでは社会学のいくつかの理論に照らして、『新しい資本主義案』の可能性を探求したい。
一つはオグバーンの「文化進行の遅れ」説(cultural lag)、二つはロジャースのイノベーション論である。
「文化進行の遅れ」
文明と文化の変動速度の相違を最初に取り上げたのはオグバーンである(オグバーン、1922=1944)。彼は、文明を支える技術や商品を含む物的側面の変化が先行し、それに遅れて価値理念、規範、道徳、芸術などの文化面に変動が及ぶことを指摘して、これを「文化進行の遅れ」説(cultural lag)として整理した注4)。
「文化進行の遅れ」説は「近代文化の種々な部分が同じ割合で変化しないで、ある部分は他の部分よりももっと急速に変化する」(同上:188)という命題から構成されている。
特定の時代の中で先行して変化が始まるのは「家・工場・機械・原料・手工業的生産物・食料品及び他の物質的事物」(同上:190)という物質文化関連であり、遅れながらも進むのは「慣習・信仰・哲学・法律・政府」(同上:190)のような非物質的文化である。
別の表現では、「物質文化における変化が適応する文化における変化に先行する」(同上:198)となる。その理由は、①物質文化の大きな堆積があり、②物質文化は速い速度で変化し、③物質文化は社会システムの他の部門にたいして多くの変化を導くからである(同上:260)。確かに最先端のミサイルを完成させても、その政体は「封建制」や「全体主義」の国もある。
2022年現在でも、私たちは筆記具、通信機器、自動車、住宅、空調、調理器具、家電などのすべての物質文化で、この1922年に出されたオグバーンの指摘に首肯せざるをえない。
万年筆がワープロに代わり、その後はパソコンのワードが席巻している現在、筆記するという行為は筆記器具の進歩に追いつけなかった。電話と速達という通信手段からメールやインターネットの世界が到来して久しいが、ここでも国民全体がメールに適応するには時間がかかった。
これらの事例で明らかなように、意識や価値それに規範やライフスタイルなどの非物質的文化の変化は、物質的文化の変化よりも遅れながら進む。マンハイムの「非同時的なるものの同時共存」の姿をここに見る。