「積極的な副業・兼業の推進」は正しい選択か
しかし根源的な問題は、若者や中年世代がなぜ「副業・兼業」をしなくてはいけなくなったかにある。学校を卒業後、初職として選んだ産業界や職種や会社そして業務に適応できないことは珍しくない。スポーツでも短距離走から中距離走に移ったり、野球選手からサッカーやゴルファーに転身した人はいる。中年期の官僚やメガバンクの役員やマスコミの編集委員が大学教授に再就職した例も多い。
その人の人生なのだから、どのような選択も可能だが、「副業をすると失業の確率が低くなる」(同上:7)、「副業を受け入れた企業からは人材不足を解消できた」(同上:8)という理由だけで、「積極的な副業・兼業の推進」を国策にしていいのだろうか。
とりわけ後者に関しては、「副業を受け入れた企業」が大企業であることは容易に想定できる。ということは、日本全体の労働者が70%を占める中小零細企業から有為の人材が流出したことになる。
もともと中小零細企業では、従業員が「副業・兼業」をするような余裕もない。もちろん国家公務員も地方公務員も本務を遂行する上で、「副業・兼業」は基本的にはありえない。
16年間の教育改革が最優先
この10年間、高校への進学者は96%程度であり、このうち55%大学が大学に進んでいる。すなわち若者の半数以上は高等教育を受けたことになっている。
その延長線上の初職こそが一番重要であり、そこでキャリアを積み、能力を磨くことが成功の近道となり、本業での成果こそ高等教育を受けた人が誇るべき目標達成になるのではないか。これが難しいのであれば、高等教育の入試方法、科目内容の見直し、教員の質の点検、奨学金を拡充した学生支援方法などの改善が先決である。
小学校からの16年間の教育内容を放置したままで、「副業・兼業」などを「本業」よりも評価する姿勢には疑問を感じざるを得ない。実際のところ、ゼミの発表よりもアルバイト先のローテーションを優先する学生もいれば、分数計算ができない大学生も存在するのだから。
この16年間こそ「こども政策を我が国社会の真ん中に据えて」(同上:8)、次世代育成を通した「人への投資」に全力を尽くしてほしい。