資本主義の基本的思想
『新しい資本主義案』の基本思想は、たとえば①「市場も国家も」「官も民も」による課題解決をする、②課題解決を通じて新たな市場を創る、③国民の持続的な幸福を実現するに集約されている。
このうち③は当たり前すぎて、とても思想とはいえない。また②も、1970年代までの公害問題に象徴されるように、クルマの排ガス規制技術をいちはやく完成した日本車メーカーが世界を席巻した歴史を想定すれば、当然のことになる。
そこで問題は「官も民も」の強調にある。同じ意味で「市場も国家も」が使われているのは、市場経済でも国家運営、合わせて全体社会システムの遂行でも、「人的資源」が枯渇してきたという事情が作用したとみられる。それを克服するために、人的資本蓄積、先端技術開発、スタートアップ育成が基本思想に躍り出た。なぜなら、「少子化する高齢社会」では、全分野の労働力人口が不足するからである。
「人的資本」育成の根本対象は学校教育
そのために全篇にわたり「人への投資」が謳われた。ただし「人的資本」育成の根本は義務教育年代の学習効果にあるから、「義務教育」の質と量の見直しが急務であるが、その方針はうかがえない。
逆に『新しい資本主義案』のストック面での「人への投資」が、「職業訓練、学びなおし、生涯教育」に限定されていて、そこまでに至る大学卒業までの16年間の学校教育面での改革案と投資案に関連する具体策に乏しい。
これは「副業・兼業の解禁が遅れている」(同上:7)という判断の下、「積極的な副業・兼業の推進」が政権の課題になっているからである。