結果は都市ごとの人口吸引力にはっきり出ている

最後に、こうした開業手続きの費用や煩雑さが、都市ごとの人口吸引力にはっきり反映されていることを確認しておきたいと思います。

アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

セントルイスは、開業手続き費用もやや高めで、必要な提出書類の数は5分野とも最高水準ですから、どんどん人口が逃げ出していくのも無理はないと思います。ニューアークも手続き費用はやや高めで、開業手続きに当人が出頭する必要がある回数は5分野とも全米最高水準です。それでも、人口10万人当りの新規開業企業数が185と、隣接するニューヨーク市とまったく同じ活発な起業活動が繰り広げられています。 これは、全米最大でしかも大都市生活の魅力あふれるニューヨーク市からあふれ出る消費需要を、比較的低賃金の労働力で満たすことができるという地の利があるからできることだと思います。つまり、コバンザメ商法です。純然たる地方都市で、ニューアークと同じような起業対策を維持していたら、新規開業企業数は激減するでしょう。ピッツバーグの人口10万人当り新規開業者数は97社と、20都市中最低です。

この事実を見ると、全般的に開業手続き費用が低めなのは積極的な政策ではなく、これ以上高くするとどんどん起業活動が衰弱するので、しかたなく低水準にとどめているのかもしれません。一方、アイダホ州ボアジーは、人口23万人の小さな町ですが、5分野とも開業手続き費用もやや低めで、開業手続きもアメリカの都市としては簡素なほうです。

その結果、10年累計人口成長率も9.7%と高めで、人口10万人当りの新規開業企業数は199社と断トツ、世帯所得中央値も5万7000ドル弱と高めです。地価も低く暴力犯罪などは少ない土地柄なので、暮らしやすさではかなり高水準になっているでしょう。

こうした実例があるにもかかわらず、アメリカ都市全体の新規開業手続きは費用も高く、煩雑なところが多すぎます。

企業そのものの堅実な成長より上場時の一攫千金を狙ったベンチャービジネスへの至れり尽くせりの待遇に比べて、ふつうの庶民の暮らしに欠かせないサービスを提供する企業を開業するときのハードルはあまりにも高いのではないでしょうか。

アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=増田悦佐先生の新刊が出ました。、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年6月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。

文・増田 悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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