線香花火で終わった「不動産ハイテク」業界

アメリカでは、第二次世界大戦の頃までは、建設業も不動産業も完全な地場産業で、ほとんど全国的な大手がなく、したがって株式市場で花形となるような企業も存在しませんでした。

アメリカでは第二次世界大戦が終わるまで地場産業だった業界は、そのまま延々と地場産業にとどまるケースが圧倒的に多いようです。最大の理由は終戦直後の1946年に「ロビイング規制法」という名の贈収賄合法化法が可決されたことでしょう。

その前から寡占化が進んでいた産業では、寡占企業が自分たちに有利な法律制度を政治家につくらせることによって、ますます社会的・経済的な地位を高めて行きました。

また、当時はまったく存在しなかった業態では、先駆者的な企業が自分たちの地位を安泰にするような法律制度を政治家たちにつくらせて、マイクロソフト、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどのニッチ型ガリバー(狭い分野で圧倒的に高い市場シェアを持つ寡占企業)が続々登場しました。

ところが、終戦直後にすでに地場産業としては成立していたけれども、全国的な大企業が存在しなかった業態では、政治家を自社に有利に使えるほどの資金力を持つ企業がなかったために、他の先進諸国に比べて地場産業から全国企業が育つことがめったになかったのです。

不動産業界でも、すでに出来上がった賃貸物件からの収益を分配する上場不動産投信(Real Estate Investment Trust、REIT)には全国銘柄があるけれども、不動産開発、分譲、賃貸には全国大手は存在しないという状態がずいぶん長いあいだ続きました。

しかし、どんな事業を展開するにも情報とかハイテクとかのラベルを付ければ売り込みやすいという時代風潮に乗って、それまで地味な非上場企業だった不動産情報・売買や賃貸借の仲介企業がどっと「不動産ハイテク」を名乗って上場するようになりました。

その結果は……? ご覧のとおりの惨状です。

アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

中でも、ズィローの株価は悲喜劇とでも呼べるような展開をしました。かなり昔から堅実な仲介業者として実績を積み重ねてきた会社です。

ですが、「コロナ・バブル」の真っ最中だった2020年から2021年の前半に、売り主の希望価格よりずっと高く売れるケースがあまりにも多かったので、ついつい欲をかいて仲介に徹するのではなく、買い取り転売に進出してしまったのです。

しかし、消費者は長期金利上昇の気配を感じた瞬間に中古住宅需要を縮小させたので、ズィローは高値づかみした多くの物件を安値で叩き売って巨額損失を出すという、プロにあるまじき醜態を演じてしまいました。

そこまで派手ではなくても、不動産ハイテクを名乗る企業の大部分が2020年末から21年前半の一過性のブームが過ぎ去ったあとは大幅安で推移しています。

結局のところ、長期にわたって地場産業でありつづけた不動産や建設分野から株式市場の花形が出現することは、アメリカのような高度利権社会ではほぼ不可能でしょう。

世界中ほとんどの国で不動産・建設産業は贈収賄の多い業界とされていますが、アメリカで製薬、軍需、エネルギー産業の大手が贈収賄に遣える金額と比べれば、不動産・建設業者が遣える金額は微々たるものですから。

アメリカでさえ、経済を支えるのは非上場企業

我々も誤解しがちですが、1国の経済を支えている企業の圧倒的多数は非上場です。

アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

年商1億ドル(約135億円)以上というかなり高い足切り線を使った上でも、アメリカに存在する全企業の86.7%は非上場で、残る13.3%だけが上場企業なのです。

もちろん、もっと低い足切り線を使えば、非上場対上場の比率はもっと一方的に非上場優位になります。

そして、消費者が直接モノやサービスを買っている企業群の大部分はこうした大小さまざまな規模の非上場企業なのです。

それに比べて、アメリカの金融市場では「ひょっとしたら、毎年数十億ドル、数百億ドルの利益を稼ぐ企業に成長するかもしれない」という企業を探し出し、少しでも早く上場させるための努力にあまりにも多くの時間、労力、資金を遣い過ぎていないでしょうか。

その反面、「自分が好きなことをしながら上司の顔色をうかがうこともなく、食べていけるだけの収入を得られればいい」と思っている人たちが、新規開業をするための環境はお世辞にも整っているとは言えません。