まず圧倒される開業手続き費用の高さ

次の表をご覧ください。全米20都市で、零細資本の起業家が手がけそうな5つの事業分野について、開業手続き費用としてどのくらいカネがかかるかを比べたものです。

アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

以下の表でも同じですが、ハードルが高い都市は赤やオレンジ、低い都市は緑で数字を強調してあります。

また、ここに出ている数字は本来開業のために必要な費用ではなく、自治体当局に開業を認めてもらうために必要な手数料だけだということです。

西海岸の人気都市、サンフランシスコやシアトルでは、自宅で塾を開業する以外、ほとんどどんな企業を立ち上げるにも日本円にして50万円以上の手続き費用が発生します。

中でもサンフランシスコでレストランを新規開業させようとすると2万2648ドル(300万円強)もかかるのです。

また、中西部のラストベルト(錆びた鋼鉄ベルト)に属するミズーリ州セントルイスでも、トラックの荷台に食料品を積んだ行商と自宅での塾以外の開業手続き費用は意外に高めです。

職を失ってなけなしの元手で何か事業を始めようとする人にとっては、開業手続きだけで大きな負担があるのは深刻な問題です。セントルイスの人口が過去10年間の累計で5.9%も減ってしまった一因は、この開業手続き費用の高さかもしれません。

逆に、やはりラストベルト地帯に属するピッツバーグは、新規開業のための手続き費用も全般的に低く、人口減少率も10年間累計で1.6%減少と、微減にとどめています。

さらに、ノースカロライナ州ローリーとかテキサス州サンアントニオとかの南部新興都市は、全般的に開業手続き費用も安く、10年累計人口伸び率もそれぞれ17.3%、16.7%と高くなっています。

なお、フロリダ州最大の都市ジャクソンビルで自宅で塾を開業するための手続き費用が、何かの間違いではないかと思うほど高いのは、それなりの理由があってのことでしょう。

フロリダ州は全米でいちばん退職後の引退生活を送る人の多い州です。

そして、これは日本でも同様の傾向がありますが、夫婦とも公立の小中学校の教師をしていらした方々の年金支給額はかなり高めです。

同じように引退生活をしている住民の中で、「小中学校の教師をしていた人たちが、自宅で塾まで開いてますます余裕のある生活ができるようになるのはけしからん」といった声が上がっていて、それに応えて塾開業の手続き費用を高くしているのかもしれません。

全体として、起業がやりやすい都市は人口成長率が高かったり、減少率を小さく抑えたりといった効果は出ています。

それでも、全体としてかなり手続き費用の高い都市が多いのは、連邦政府や州政府と違って有力産業の寡占企業から大口献金がない分を中小零細企業の開業に際しての法律や規則で定めた費用として埋め合わせようとしているのではないかと勘繰りたくなります。

開業に関する諸手続きはほぼ間違いなく日本より煩雑

ここから先の4枚の表は、零細企業1社を立ち上げるだけでもいかに煩雑な手続きが必要かを具体的なデータとしてご覧いただきたく思って、つくってみました。

「自由競争の市場経済の国、アメリカでは必要なライセンスひとつ取れば自由に起業できる」といった見てきたようなウソをつく方が、あまりにも多いからです。

内容はほぼ同じことの繰り返しになりますので、データとしてざっと見渡していただければと思います。

アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
アメリカはカネ儲けが目的なら簡単だが、事業を成功させるのは至難の国
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

日本では、「お役所仕事」の緩慢さがとかく批判の的となります。そして、別に根拠があるわけでもないのに、アメリカならずっとてきぱき事が運ぶと折っている人が多いようです。 しかし、そのアメリカでは、トラック行商と自宅での塾以外では開業のために当人か、しかるべき資格を持った代理人が直接役所に出向かなければならない回数がほとんど0~2回では済まないですし、開業のためのステップ総数が1ケタに収まることもめったにないのです。おそらく、開業手続きに関するかぎり、日本よりアメリカのほうがはるかに煩雑なのではないでしょうか。