生きる喜び

それで、「生きがい」の比較調査によって確認できた暫定的結論を紹介しておこう。

  1. 生きがいは外国語に翻訳できない日本語特有の意味合いがある。
  2. 定義の検討に深入りするのをやめ、生きがいを「生きる喜び」と位置付けて、調査票に項目を盛り込み、主要因を探究し、要因間の関連にも配慮する。
  3. 「生きる喜び」の軸は個人の生活・生存・維持、およびその個人的目的の遂行過程と達成を喜ぶ心情にある。
  4. 高齢者の生きがいは他者から与えられるものではないが、日本には中央政府や自治体による高齢者の生きがい対策があり、条件整備を行おうとするこれらの政策努力は受け入れたほうがいい。
  5. 宗教心が強い社会や個人では、信仰そのものが「生きる喜び」となるが、日本の高齢者でそれは極端に少ない。
  6. 宗教的背景が乏しい日本の高齢者は、世俗的な日常生活において自力で生きがいを得ようとする。
  7. 時代の特性としての多様性を受け入れた社会的価値に照らして、日本の高齢者は「生きる喜び」の下位領域として手段性(instrumental)を重視して、「生きるはりあい」、「自己実現」、「アイデンティティ」などを求める。
  8. 「生きる喜び」の復活には、表出性(expressive)に富む自己肯定的な社会活動への参加、家族との交流、健康づくり、友人交際、趣味娯楽活動、得意分野の継続が有効である注6)。
  9. 「生きる喜び」は日常的な自己の満足と未来を遠望した際の自己評価との一致度で得られる。
  10. 日常的肯定としての高齢者の「生きる喜び」は、active aging、positive aging、productive aging、successful agingなどの類似概念に接合可能である。

10項目の「生きる喜び」

これら10項目の理解から、生きがいを「生きる喜び」として、「安定した私生活の中で、自分を活かし、人生の意味を確認して、自由な関わりの社会関係をもち、未来への展望が可能だと感じる意識状態」とする観点を堅持しておきたい。

そのような結果を一つひとつ拾いあげて従来の高齢者研究の社会学説と照らし合わせていく作業をやらないと、「生きがい対策」分野の研究は進まない。

実際に調査票で獲得された高齢者データをきちんと統計学的手法で分析してこそ、数多くのことが学べる。研究の前進にとって、技法に裏付けられた計量的な調査は不可欠である。