限界役割効用を活用する

「無縁社会」でも人とかかわりあって高齢者が生きがいを求めていく政策を考えるために、私が造語したのは「限界役割効用」という用語であった(金子、1993:61)。これは地域福祉の調査で特に町内会長とインタビューを繰り返したことから気がついた概念であり、経済学では周知の「限界効用」(marginal utility)を下敷きにした。

これはある財の消費量、たとえば鉛筆を増やすとき、一本増えるたびに得られる満足度すなわち効用が減少するという法則を応用したものである。具体的には筆記具の持ち合わせがなければ、最初の1本の効用は天文学的に高いが、2本目からのそれは次第に乏しくなり、5本にもなれば、効用を特に感じなくなる。

人の場合はやや事情が違うが、「役割縮小過程」に入った高齢者が町内会の班長という新しい役割を手にした時に感じる大きな効用と、次第に役割が増えて、たとえばある政党の支部長、シルバー人材センター運営委員、町内会長、市役所の地域福祉審議会の委員、出身高校の同窓会の幹事、元の職場の同期会会長などを引き受け続ければ、5つ目あたりからはそれほどその役割に効用を感じないという調査体験から作り上げた概念である。

高齢者の生きがい

私の高齢者の研究は、最初の10年くらいは地方都市在住の60歳から79歳までをランダムサンプリングして、訪問面接法により得たデータの計量的な解析を軸としていたが、次第に質的方法としてのインタビュー法も行うようになった。内容的には後者の方がたくさんの知識が得られることが分かったからである(金子、2014)。

しかし計量的手法による因子分析からは、高齢者の「生きる喜び」は「社会参加」、「家族交流」、「友人交際」、「趣味娯楽」に類型化できたし、その後の調査でも「趣味娯楽」とは独立した存在である「得意」を抽出できたので、こちらも一定の成果が得られたと感じている(同上:177-203)。

そのような計量的研究では、一般に家族や親戚との関係が良好である、元の職場での同僚との関係性はいい、友だちとのつきあいもうまくいっているといった人間関係のレベルでは、「生きがい」を押し上げる要因とそうでない要因が抽出できる。

いくつかの地方都市での「高齢者生きがい」調査では、74歳までの高齢者には支持されるが、75歳からの高齢者では該当しにくいものもあり、健康な人には効く反面、健康を害している人には有効とはいえないといった細かい発見がたくさん得られた。