役割を演じる

なおここでは、バウマンのいう「わたしたちは、日常生活のなかでさまざまな役割を演じているが、その集団の仲間たちは、通常、私たちの他の役割には関心がない」(バウマン&メイ、2001=2016:110-111)に留意しておきたい。なぜなら、地位に伴う役割には多数の社会的ネットワークが付随しているからである。

しかし仕事の現場では、教室での講義者と受講者に単一化されるように、教授と学生とは一点の役割でつながっているだけである。教授も学生もたくさんの役割セットの束を持つが、教室では講義役割と受講役割だけでつながっている。これは診察室での医師と患者との関係でも同じである。

だから役割関係では職業に関連する業務遂行上の利害関係を伴うことが多く、陳情だけではなく、強制、温情、忖度などの場面を構成し、場面ごとに役割が変換されやすい。たとえば、「白を黒と言わざるをえない」「見て見ぬふりをする」などは、状況次第で発揮する役割にとっさの変更を生じさせたことを意味する。

固定役割としての人類役割と家族役割

さて、老若男女としての個人は様々な地位をもつが、大枠として地位に基づく役割は4種類に分けられる。一つは人類の一員としての固定役割があり、平和や安全の維持確保それに地球環境の維持に関する行動を含む。人類の一員としてのこのような固定役割は、古今東西の老若男女全てが担うことになるため、図1には登場しない。

政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑨:生きがいと役割
(画像=図1 3つの高齢者役割とバックアップシステム
出典:金子(1997:45)、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

しかし家族の中で誕生する人間は幼いころから家族のなかで固定役割をもつ。それは年齢とともに増えていくが、子どもとしての役割、親としての役割、高齢者としての役割などに拡散する。

固定役割は家族に関連していて、出生後の人間は社会化とともにその役割を拡大する。学校を卒業して、就職・結婚・子育て・子どもの自立・定年退職というような男性のライフコースでみても、子どもの自立までは父親としての固定役割は増えこそすれ減ることはない。

しかし、同じころに迎える定年の後になると、家族内の固定役割は縮小を始める。もちろん個人が生きている限り、いくつになっても家族役割は残り、子どもや孫の就学、卒業、就職、結婚などの場面で発揮され続ける。そして本人の配偶者の死などにより徐々に失い始める。この間、行政、企業、地域社会、本人と家族などの努力により、バックアップシステムが作動する注5)。