コミュニケーション力で役割縮小を補う
そうするとますます高齢者のコミュニケーション的な能力が荒廃する。人間は誰しも社会システムとの接点に家族に関する固定役割を持ち、地域社会においては流動役割、職場では循環役割があるのに、それらが加齢とともにすべて剥奪され縮小させられるのが高齢者である。したがって、高齢社会とは「役割縮小過程」に到達した高齢者が三分の一を占める社会でもある。
だから、高齢者支援政策として何もしなければ、現今の高齢者の役割剥奪・縮小は進む。そのまま放置するか、高齢者を支えるかは社会システム全体の課題になるが、後者であれば高齢者が失った役割をどこでどのように創出するのかという問いになる。
「少子化する高齢社会」での政策にとっては、生活の質(QOL)を基盤とした「最適解」は無理だが、「次善解」として「役割」を媒介とした「生きがい」を見つける支援策は欠かせない。コミュニティづくりや地方創生の一翼を担う「地域役割」もまた、「生きがい」をそれらの活動に求める高齢者に期待されるところである。
(次回:政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑩)
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注1)本連載のサブテーマである「情熱、見識、責任感」は、「地元の声」を取り上げる国会議員や地方議員の区別なく、政治家の判断をも左右する。
注2)公助から商助までの5つの支援様式については連載第6回(家族と支援)で詳述した(2022年5月30日)
注3)連載第3回目の「選挙改革」案(2022年5月9日)で、「世代代表制」と「地域代表制」を並立させた根拠もここにある。
注4)ラべリングとは他者の行動に一定の「ラベルを貼る」ことの総称である。とりわけ特定の規範からの「逸脱」行為に使用されることが多い。代表的には「〇●族」や「暴走△▼」というようなラベルになる。
注5)ただし、図1では「共助」を独立させていない。「共助」を組み込んだのは「地域福祉システムモデル」の後からである(金子、2013)。なお、連載第6回(2022年5月30日)を参照のこと。また、新しい資本主義実現会議が6月7日に発表した「案」では、「国土強靭化基本計画」関連で「自助・共助・公助」が使われている(同会議、2022:29)。
注6)ここにいう手段的(instrumental)と表出的(expressive)についてはパ-ソンズの使用法に従っている(パーソンズ、1951=1974:395-424)
注7)active aging、productive aging、successful agingなどについては金子(2014)で説明した。
注8)公立高校入試がいわゆる主要5科目で行われるようになって50年以上経過するが、団塊世代を含む7年間の公立高校入試では、音楽、美術、保健体育、技術家庭も出題科目であった。それは太平洋戦争から15年が経過した前の東京オリンピック前後の期間であった。高校入試の出題科目であったために、9科目総得点200点のうち主要5科目に比べて配点割合は少なかったが、ともかく中学校3年間の経験としてこれらの4科目の基礎知識を学び直して受験したことは事実である。これは団塊世代の恵まれた経験であり、高齢期を迎えた現在、その60年前の知識(私の場合は音楽)が日常生活のなかでの「趣味」と「得意」を支えている。
注9)コミュニケーションの力は使わないと落ちるから、全国の自治体でボランティアを中心に行われている高齢者の「話し相手」になる地域福祉活動の意義は大きい。
注10)たとえば、近隣での「葬式」が仕切れる若い世代や中年世代はほとんどいないが、現在の85歳代以上の多くはそのノウハウを持っている。
【参照文献】
- 新しい資本主義実現会議,2022,『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現』(案)同会議.
- Bauman,Z.& May,T.,2001,,John Wiley and Sons Ltd.(=2016 奥井智之訳 『社会学の考え方』筑摩書房).
- Habermas,J.,1981,,Suhrkamp Verlag.(=1987 丸山高司ほか訳『コミュニケイション的行為の理論』(下)未来社.
- 金子勇,1993,『都市高齢社会と地域福祉』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,1995,『高齢社会:何がどう変わるか』講談社.
- 金子勇,1997,『地域福祉社会学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2013,『「時代診断」の社会学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会.
- Merton,R.K,1957,,The Free Press.(=1961 森東吾ほか訳『社会理論と社会構造』みすず書房).
- Parsons,T.,1951,,The Free Press.(=1974 佐藤勉訳『社会体系論』青木書店).
- Simone de Beauvior,1970,L, Edition Gallimard.(=1972 朝吹三吉訳 『老い』(上下)人文書院).
文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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