言語表現力が落ちてくる
具体的には、日常生活の中で高齢者本人の言語表現力が落ちてくる。言葉が不自由になってきて、総体的に物忘れを含めて「自分の」表現能力の低下が顕在化する。
もう一つはコミュニケーションの相手が次第に少なくなる。たとえば、身近な話し相手が病気で入院する、亡くなる、遠くに引っ越しするなどで、高齢者本人のコミュニケーション力はあるのにそれを発揮する場所や相手を失ってしまう。
もちろんコミュニケーティブな能力が荒廃するというのは、何も高齢期に特有なことではなく、時代にも左右されるし、本人の性格によることも多い。
高度経済成長期では各方面でイノベーションが生み出されたために、伝統的な知識、知恵、技術を保持している高齢者の出番が乏しくなったことにより、その存在が無視されることが増えた。それによっても、高齢者のコミュニケーション能力の低下が進行した。
このハーバーマスの理論を使うことによって、いわば従来の認識を飛躍させ、年金や医療費や介護問題を越えて、高齢者問題の一つに「コミュニケーション力の荒廃」という視点を導入すると、高齢者支援の方法にも幅が広がる注9)。
高齢者特有の身体的な劣性には福祉サービス
高齢者は日々加齢している存在なのであるから、身体能力面の劣性は不可避となる。それには、従来からの介護保険や類似の福祉行政サービスに含まれた諸々の政策で支援していく。これは万国共通の政策である。
ところが、身体的な劣性に対応する精神的な聖性の低下は放置されがちである。誰にでもやってくる加齢に伴う記憶力や判断力の落ちこみは仕方がないが、それ以前に一般論としても高齢者の経験と判断力を軽視する風潮が社会的に強くなってきた注10)。