多方面への関心が救いになる
これらのいずれかに「趣味」の対象が隠れている。さらにその延長上に「得意」もまた存在する。ボーヴォワールの名著でいわれたように、「もっとも恵まれた老年をもつのは、多方面の関心事をもつ人である。そういう人は他の者よりも再転換が容易である」(ボーヴォワール、1970=1972下:535)。
中高齢期から親密な他者を見つけ、高齢期の良薬となるような人的環境(ソーシャルキャピタル)を維持できるかどうかが、高齢社会における高齢男女の豊かな生活にとってのカギとなる。
そして多方面の関心を実行するためにも、再転換を行うにしても、本人のもつコミュニケーションの力がカギとなる。
コミュニケーション力が低下した高齢期への対応
ところが、通常の暮らし方をしてきた高齢者では、加齢とともにコミュニケーション力が低下している。
この事実を基にすれば、第1の年金、医療費、介護という高齢者支援、そして第2の生きがい対策に加えて、第3のテーマは高齢者のコミュニケーション力が低下することへの対応になる。しかもこれら3者は密接に結び付いている。
「高齢期というのは生活世界のコミュニケーティブな能力の荒廃である」と捉え、「生活世界」を「われわれが一緒に生活史、お互いに行為し語り合う場合の出発点」(ハーバーマス、1981=1987:424)と理解すれば、それは「毎日のルーティンの諸々」を指し、いわば「日常生活」そして「生きがいのある生活」とほぼ同義になる。