“馬”のマークさえ付ければ競合品の倍の値段で売れる!
その仕組みづくりが本社の仕事
なお、意外に収益貢献をしている事業はお客さまへのアフターフォローである。時計や鞄であれば純正品によるパーツ交換などだ。ここも、国としてマイスター(職人)を尊敬する文化が欧州にあるため、定期的に欧州から技術者が日本を訪れパーツ交換や修理などの技術を教え込む。
平たくいえば、「私(本社)、考える人、あなた(リージョン)、売る人」と分業化が明確化されており、それぞれの組織にミスも少ないし、時間もスローペースで流れているように思う。
ここでわかりやすくするために、一例としてラルフローレンを想像してみて欲しい。もちろん、これは分かりやすさを優先したからであり、完全なフィクションであることは最初にお断りしたい。
各リージョンの商品が多少本国とデザイン上のブレがあっても、「馬のマーク」を左胸に刺繍で織り込んでおけば、世界でプレミアム価格で売れる仕組み作るのである。これこそが本社の仕事の本質だといえる。
“これからは質の時代” は意味不明なロジック
規模が大きくなれば、(LVMHの営業利益総額はトヨタを抜いた)、グループ内では小さくても、グローバル・ガリバーに勝つことが可能だ。例えば、ブランディングに無知な日本の人と話すると、「ブランド」というものが金で買えると本気で信じている人が多い。しかし、考えてみれば分かるが、ある人が生涯をかけて築いてきた「人との信頼」をブランドだとするなら、そのブランドを確かなものにするためには、やはり「時間」が必要だ。金を積めば「信頼」が買えると考えていることこそが勉強不足なのだ。
私は今から7年ほど前に、これからの企業買収は、垂直統合、水平統合に第三の軸、「ブランド統合」が生まれると日経ビジネスで予言した。トップメゾンは、例えば、イタリアの片田舎の小さい王室御用達企業があったとしても、M&Aにより巨大なコングロマリットにいれ、極めて戦略的かつ優先的に資金をその小さなブランドに配分、例えば「VOGUE」などの一流雑誌のトップページに定期的に掲載することも可能だ。
今、マーケティング戦略といえば、まず広告費を投下し一人あたりのレスポンスレートをだし、客単価 x 離脱までの期間で、回収する形になっている。
だが、ブランドビジネスというのは、ある一定量の大量資金を固定費であるかのごとく、(ブランドになるまで)出し続ける。いわば「原価のような振る舞い」をする。そこにはROAS(投下広告に対するリターン)という概念はないのだ。
ここがわかっていないから、ブランドを持つものはますます強くなるし、持たざるものは人に知られもせずに消える可能性もある。