トレンドを押さえる、追いつく ではない
トップメゾンが取る戦略とは

圧倒的に低い原価率が容認される秘密 知られざる外資スーパーブランドのビジネスとは
(画像=外資トップメゾンは流行を自ら作り出す(写真はイメージ、AS-photo/istock)、『DCSオンライン』より引用)

さらに、決定的なのはトレンドへの対応である。

当時から、トレンドに関する議論はあちこちでなされていたが、大きく流派は二つに分かれていたように思う。「トレンドの先端はパリ、ミラノ、ニューヨークの三大都市であり、そこで紹介されるトレンドの大元を押さえることが、ファッション・ボラティリティ(不確実性)を予想する最善解だ」とばかりに、シーズンになれば徒党を組み、欧州や米国に出張に行く。もう一つは、「ファッションなど変数が多すぎるため予測は困難。ならば、ヒットがわかった段階で、思い切りスピードを上げて生産し商品在庫を十分に積めば良い」という考え方だ。いうまでもなく、後者がQR(クイックレスポンス)に進化し、メジャーになっていった。なぜなら、コレクション(2年前のものになる)はあまりにアブストラクト(抽象的)で、具体的な商品に落とすにはあまりにコンセプチュアルだからだ。

一見この二つは、MECE (漏れなく、ダブりなく)であるように見える。しかし、欧米のトップメゾンは違う。彼らは、第三の道を選択しているのである。それは、「ファッションを予想しようとするから迷宮入りする。ならば、格好良いものをこちらから作り、トレンドを牽引してしまえば良いではないか」という考えだ。
つまりクリエーションという作業、つまり0を1にする作業は、トップメゾンのみが行っているわけだ。あとは、1を1.5にするとか、いずれにおいてもデータベース・ドリブンによる科学的分析手法が世界の大多数を占める。

伊勢丹と丸井の対照的な戦略の違い

ここで一旦横道にそれて、日本を代表する2つの企業の話をしたい。

今から10年以上も前、私は伊勢丹と同時に丸井の仕事もしていたことがある。
伊勢丹は「自分たちは消費者の半歩先をゆく」というところに異常なこだわりをもっており、逆に、丸井は「お客さまは神様です」とばかりに、徹底して「お客さまの負」を潰していった。この2社は、厳密にはビジネスモデルは違うのだが、極めて対比的で興味深かった。当時、丸井はスーパー・ドリームチームを経営直下に組成し、日本で初めて(世界で初めてかも知れない)今でいうコンフォートシューズの先駆けともいえる「らくちんキレイパンプス」を生み出した。この商品は、丸井のファッションでもなければ機能品でもないポジションに合致し、また、女子大生の就活ブランドとして売れに売れた。私は、この商品を開発するためだけに、一週間女性モノのパンプスを履いて生活し、「女子たるもの、かくも足が痛くても我慢していたのか、むしろこれを解決すれば圧倒的な差別化が手に入る」とブルーオーシャンを見いだした。

一方、伊勢丹との仕事から、悪名高い百貨店の委託消化取引について、私は考え方を大いに変えることになった。伊勢丹に入り込めば入り込むほど、この「返品できる」という安心感が、どれだけ同社の商品在庫に対する恐怖からバイヤーを解放するのかがわかった。その結果バイヤーは「お客さま本位」で考え、行動に移すことができたのである。すべての現象には原因がある、ということだ。

すべてを類型化するのはよいことではないが、多少強引でもアパレル・ビジネスを類型化したくなるのがコンサルタントである。私は、初期的に本質的に差別性のないこのビジネスで頭一つ抜けでるためには、以下のビジネスモデルをスタートポイントにしている。これは、今後10年の戦い方の初期仮説である。もちろん、企業は個別企業ごとにすべて戦略はバラバラで、テーラーメイドはないが類型化された初期仮説は存在する。

  1. 工場は自らブランドを持つD2Cになる
  2. 商社は金融とデジタルクラウドハブとなるSMEs (中小企業)のハブ機能となり、投資を組み合わせる
  3. アパレルや小売は、大企業はバリューチェーン全体の垂直統合による大規模なコスト優位性を、中小企業および個人でさえ 2. に組み込まれ、共通化領域を同じくすることでスケールメリットと特徴を両立することができる

前置きが長くなったが、以降、本国コントロールによる日本やアジアのカントリーリージョンの業務内容について、日本との違いを解説したい。