今回は外資トップメゾンの実態から、われわれ日本のアパレル企業が学ぶこと、をテーマに論じてみたい。そもそもブランドビジネスは、今の日本のアパレルビジネスとは全く違うものなのだが、日本のアパレル企業が世界に出ていき、勝っていくためには不可欠な視点であるので、その実態と要諦を赤裸々に解説したい。
スーパーブランドをスーパーブランドたらしめる「秘伝のタレ」
「日本のアパレルは独特ですよね。商品が欠品したら追加で再投入するそうじゃないですか」「そんな仕事をしていたら、いつまでたってもドタバタ騒ぎはやまないですね」
この発言は、某アパレル業界20年というベテランの口から発せられたと聞いて、あなたは奇異に感じないだろうか。多くを日本のアパレル産業について語ってきた私だが、当然ながら、海外のトップメゾンとよばれるスーパーブランドのコンサルティング経験もそれなりにある。実際、私が商社マン時代、常に「日本と海外のアパレルビジネスの進め方の違いはどれほどなのか」を知りたかった。上記発言は、世界を代表するスーパーブランド(トップメゾン)のジャパンカントリーマネージャとのディスカッションで、彼の口からでてきた言葉だった。
商社、それも繊維部門の人間となれば繊維・テキスタイルのことは何でも知っているように感じている方も多いと思うが、意外にも彼らは外資ブランドだけでなく、日本のアパレル・小売企業のオペレーションの違いさえ多くを知らないことが多い。私も、10年の実務経験があるといえ、そのほとんどを日本のアパレル企業のOEMに使ってきたため、世界のトップ・メゾン、スーパーブランドのオペレーションなどに精通するようになったのは、経営コンサルタントに転身してからだった。
なお私は、職業柄「二次情報」は全く信じていないし、ましてやメディアや素人調査をやって、「知ったように」書いている論考なども信じていない。私はある時期、世界コングロマリットのコンサルティングを数年にわたりやった経験がある。したがって今回お伝えする内容は、すべて一次情報である。
スーパーブランドの裏舞台は固い守秘に守られ、リージョンごとの自由度はほとんどないに等しい。実際、ある著名な日本のトップがグループを退社したのは、この「自由度がないから、ビジネスとしてのダイナミズムを感じられないからだ」といっていたことを思い出す。しかし、その裏には日本人が想像もつかないような「秘伝のタレ」が存在していた。今日は、可能な限りそのことについて語りたい。
検品1つとっても大違い!外資メゾンがみる意外なポイント
外資トップメゾンと日本では、あらゆる部分が異なっている。例えば、今では98%以上が海外生産となっているアパレル製品だが、その検品方法は全く違っていた。私は、外資のメゾンが行う最終検品に立ち会ったことがあるが、彼らはマネキンに完成品を着せ、「格好よいか否か」で最終ジャッジをする。もし、イメージと異なる場合、はじめてメジャーをだして、例えば「身幅を3cmつめましょう」など、修正をくわえてゆく。これに対し、日本のデザイナーと海外の工場に出張にゆくと、必ず彼ら、彼女たちは「メジャー」を出し、「首回り」から、「身丈」、「裄丈」など決められた順番に置き寸で図りにゆく。最後に、確認でマネキンに着せて終了だ。
「一長一短」ではないかという人もいるかもしれないが、そうだろうか。日本のアパレルのデザイナーは「売れそうか否か」でなく、発注したスペック通りかどうか、数ミリ単位でケチをつけてくる。例えば、ニットのような素材特性や編み方によって全くサイズがかわるような商品にミリ単位の制御は不可能だ。ここにはあうんの呼吸があって、検品工場は商品に蒸気を当てて伸ばしたり引っ張ったりして先上げ検品(全量検品をすることが時間的に不可能なので、抜き打ち検品をする)だけをジャストサイズにする。そんな茶番劇が繰り広げられている。
売れないときの責任転嫁がしたいからか。あるいは本当に、世にでてもいない商品が(机上の)採寸通りに商品が上がれば 、なぜ売れると心から信じられるのか。彼ら、彼女らの仕事は「サラリーマン仕事」にしか見えず、外資のやり方(全体の雰囲気をみて、採寸通りでなくても格好良ければ、それで押し通す)ほうが理にかなっているように思えた。