「うちの倉庫の在庫簿価は某都銀の資産より多い」

さて、外資と日本企業のサプライチェーンの違いを理解していたとはいえ、度肝を抜かれることがあった。もっぱら、ものづくりから店頭配分までを商社に委託している(いた)日本のアパレル企業だったが、財閥系商社以外の商社が自社物流(例えば、三井物産なら商船三井など)をもっていることは珍しかった。その多く、いや、ほとんどが第三者物流だったが、その某メゾン(を日本で展開する会社)は都内の一等地に倉庫を持っていた。私は普通に「なぜ、このような賃料が高い場所に倉庫を持つのか」と社員に聞いたことがあったのだが、その時、彼は、「河合さん、我々の在庫簿価総額は都銀の資産以上もある。そんな在庫を第三者に任せられない」と。なるほど、最もな理屈だ。

また、驚愕すべきは、当時(今から10年以上も前)ここまでデジタル化が進んでいない状況下でも、実棚で違いがあったのは一つの商品のみ。その商品も、最後は見つけることができた」という事実だ。「本来は外部の人間は誰も入れないのですが」と前置き、私は倉庫の奥の奥まで入ったことがあるが、ここでは書けないほど圧巻な景色がそこにあった。商品一つが数億円などというのは当たり前の世界。自分がいかに荒っぽい仕事をしていたかを思い知らされてものだ。

おもしろいのは、アパレルなどのシーズン性が高い商品についてである。日本企業であれば、企業のルールによってライトオフまでの期間は商品によってまちまちだ。この点私は、この商品別価値の残存期間とライトオフルールを厳密にシンクロナイズし、ここにしっかりとした資金調達戦略を掛け合わせれば、企業は山のように収益がでると説いてきた。今でも、その考え方には変わりはない。

売れるだけ売れ!
残れば運賃着払いで本国に返品すればOK

圧倒的に低い原価率が容認される秘密 知られざる外資スーパーブランドのビジネスとは
(画像=Neyya/istock、『DCSオンライン』より引用)

ところが外資トップメゾンは違う。トップメゾンのリージョンがやっているのは、大きく4つに大別される。

  1. 過去の趨勢から見たマーチャンダイジング(MD) –売上予想
  2. 調達物流とShip back (返品)
  3. 出店、店舗販売員教育
  4. デジタル

である。例えば、MDという業務があるが、リージョンごとに複数のブランドのまとめ役として、必要なMDと売上計画を各リージョンに設置されたホールディングスがまとめてゆく。ホールディングスは、それをグローバルに送るのだが、グローバルは、これを「参考程度」にしか扱わず、最後は「これだけ売れ」と、トップダウンでShip out (本国からリージョンへ出荷すること)をするわけだ。当然、各リージョンは与えられた商品を消化すべく様々な販売計画を立てるも、在庫が残るときは残るものだ。驚くべきは、こうして残った余剰在庫は Freight collect (飛行機運賃着払い、リージョンへの輸入時に支払った税金による簿価分も含め)、本国が「売り戻し処理」を行ってくれ、リージョンには損失在庫による利益の減少は全く無いわけだ。

したがって、各リージョンのCEO(グループCEOは別かもしれないが)に利益責任がないのである。その企業は、輸入為替も円建てで行っており、「円安だったから」などという言い訳も一切通用しない。