先有傾向と選択性

この探求の補助線は4通りで、それはすべて受け手の側に関連する。一つは個人が特定テーマに関連して持つ「先有傾向」、二つ目の傾向としては、個人は興味と関心をもつマスコミ情報には接触するが、共鳴しなければ接触を回避するという「選択的接触」があげられる。

関連して三つ目は、知っていることや関心に適合した情報しか認知されない「選択的知覚」があり、その延長線上に四つ目として「選択的記憶」が存在する。いわば自分の固有の好みや関心に沿っている内容しか認知せず、記憶もしないという人間の持つ情報接触の傾向をどのように変えていくかの応用問題になる。

目標達成条件は国民の凝集力から

問題打開の可能性に富むのは、個人が所属する集団とその集団がもつ規範への働きかけにある。まずはニューカムらの命題である「目標達成は凝集力を高める」(ニューカム、ターナー、コンバース、1965=1973:552)と「目標達成は構造的統合に寄与する可能性が大きい」(同上:553)を組み合わせる。すなわち、「目標達成-凝集力-社会統合」のラインに注目する。

さらに、ニューカムの旧著にあった命題、すなわち「凝集力の基礎を満足においた方が、凝集力は強い」も活用したい(ニューカム、1950=1956:641)。

これらを総合して、仮説「目標達成は凝集力を高め、構造的統合に寄与して、国民の満足を高める」を作成し、これを手掛かりにして新型コロナウイルス対策を再点検するのである。

すなわち、この半年間や1年間で、どのような目標達成が謳われたか、粉末化している国民の凝集力をどのように位置づけてきたか、政府が打ち出した政策が日本社会の構造的統合をどのように変えたか、それは国民の満足ないしは不満をどの程度もたらしたかを問いかけるのである注7)。

社会的凝集性

社会学における社会的凝集性の概念は関係面と意識面に分割できる。前者にはネットワークレベルの友人、親戚、同僚、近隣などの個人的関係、および所属する組織・法人や集団の両者が該当する。具体的には親しい友人関係や知人との間でまとまっていて、同時に所属する学校や職場や地域社会での関係がうまくいっている場合に、社会的凝集性が得られるという仮説である。

次に意識面では、冠婚葬祭に典型的な居住する地域社会の中での価値観の共有、そして全体社会レベルで共有された一般的価値と規範をどの程度受け入れているかも凝集性を測定する指標になる。

それには国民としてのアイデンティティから家族や職場でのしきたりの受け止め方まで含まれ、最終的にはこれらから総合化される国民間の信頼感などが指標として使用できる。これらが社会システムを支える社会的凝集性の基盤を構成する。