同じ「刺激」に同じ反応が生まれるとは限らない

もちろん人間には個性があるように、組織・法人にも伝統があり、独自の価値規範があるので、同じ「刺激」に同じ反応が生じるとは限らない。

タバコの発がん性がいくら叫ばれても無視する愛煙家はいるし、人権を重視するとは言いつつも特定民族への抑圧を止めない国もあり、国際法を無視して他国の領土・領海に侵入を繰り返す国もある。また、全世界からの拠出金で運営されていながら、公平性に欠ける国際機関もある。

態度補強と態度変容

一般に「刺激」への「反応」はさまざまであるが、行動変容に関しては2種類の分類ができる(同上:57-58)。

  1. 態度の補強
  2. 態度の変容

既に紹介したように、これまでの多くの実験や社会調査で証明されてきたのは、態度の補強にはマス・コミュニケーション(以下、マスコミと略す)の影響が強く、態度の変容にはパーソナルコミュニケーション(以下、対人接触と略す)が有効であるという知見である。

その代表的な意見は、既述したクラッパーに見られる。「パーソナル・インフルエンスは、この影響力とマス・コミュニケーションの影響力とがともに存在する場合には、マス・コミュニケーションよりもより決定的な影響を変化の方向に与える」(クラッパー、前掲書:130)がそれである。

この結論は、当時の多くの実験や文献研究の成果として得られたものである。ただし、この優位性は「決定のトピックごとにいちじるしく異なる」(同上:130)もまた正しいので、コロナウイルス感染予防に関しては独自の工夫が求められる。ここでは工夫の一部として、図1「行動変容ステージモデル」の活用とした。

マスコミ情報は態度補強に有効

通常、人間が持つ価値や規範は家族史のなかの個人生活に根差しているので、テレビで受け取るような情報では簡単に変容しない。むしろ周知の箴言「人は見えるものしか見ない」「聞こえるものしか聞かない」は正しいので、たとえ正しくてもマスコミ経由の情報は選択受容されるだけである。すなわちマスコミ情報接触により、従来持ち続けてきた態度は補強されるが、ほぼ変容しない。

加えて「行為の延期は、各人が高度に専門化し独立した大衆社会の特徴」(ラービンジャー、前掲書:59)なので、現代人の態度を変えて行動変容に導くのは難題になる。たとえば医師が処方して検査を指示しても、患者がすぐには反応せずに、「行動を延期」することは日常的である。ではどうするか。