孫の世代の経済的可能性
今から1世紀近くも前にケインズは、「孫の世代の経済的可能性」という小品を書き、100年後の世界すなわち2030年を想定した「経済的可能性」論を展開した(ケインズ、1931=2010)。
そこでは経済的な「至福」の状態という目的地への歩みは4つの要因で決まるとして、①人口の増加を抑制する能力、②戦争と内戦を回避する決意、③科学の世界で決めるのが適切な問題は科学に任せる意思、④資本蓄積のペースがあげられた。
そしていかにも経済学者らしく「資本蓄積のペースは生産と消費の差によって決まり、前の三つの要因があれば自然に解決される」(同上:219)と展望した注1)。
(前回:政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑦:新型コロナ対策)
満たせなかった三要因
あと8年で当時のケインズが展望した100年後になるが、人類は依然として三つの要因を手に入れていない。もっとも「人口増加の抑制」だけはいわゆるGNに該当するいくつかの国では現実化したが、GSを含む地球全体では成功していない。
「戦争と内戦の回避」については、2022年2月24日からのロシアによるウクライナ侵略戦争および国連の無力に象徴されるように、絶望的な状態にある。
そして、日本における新型コロナ対策の2年半の経験でも、国民の「行動変容」などへの科学的な取り組みはほとんど見られず、首相や知事や専門家会議による「お願い」が「政治的意思」を代替したような印象を与えている。