「行動変容」させるきっかけがない
この分類自体は納得しやすいが、残念ながら「行動」を「変容」させるきっかけへの言及に乏しい。たとえば「周りの人」という表現だけでは説明が不足していて、個人に対する外部からの全般的影響力に配慮が行き届いていない。
なぜなら、「周りの人」の範疇には、家族、親戚、友人、知人、学友、親友、親密な他者、学生時代の恩師、職場の同僚、取引先の相手、かかりつけ医、テレビや新聞を通して情報を伝える専門家、ニュースを読み上げたキャスターなど、さまざまな関係者が混在しているからである。
社会学でいえば、流行りのソーシャルキャピタルは健康増進に有効な情報をもたらし、「準備期」を用意させる力がある注3)。そして、ソーシャルキャピタルのうちでも特別な「親密な他者」としての関係ならば、「実行期」や「維持期」を伸ばす影響力も合わせ持っている。
個人の態度変容は「親しい関係」から
大方の予想とは異なり、「準備期」から「実行期」に飛躍するのに不可欠な要件は、日常的な情報量が飛躍的に多いマスコミへの接触ではない。
むしろ「無関心期」から「維持期」までの5つの期間を通して、個人の態度変容に関しては個別の「親しい関係」からの情報が有効性を発揮する。
マスコミ情報は視聴者の行動変容をさせる力がない
残念なことに図1のモデルでは、従来のマスコミ研究の成果であった「マスコミ情報は視聴者の行動変容をさせる力がない」といった命題への配慮がなされていない。この内容は古くから学界で共有されてきた。
たとえば1960年に出された政治的トピックと非政治的トピックのコミュニケーションに関するマスコミの影響力研究で、マスコミは「補強(reinforcement)の作用因としてきわめて頻繁に機能する」(クラッパー、1960=1966:33)という結論はよく知られている。
もちろんマスコミへの接触による個人の態度面での「小さな変化」もあるが、むしろそれはそれまで個人が持ってきた行動様式である「先有傾向」を強める作用が大きく、せいぜい「新しい意見を付加する」(同上:66)に止まる。