「親密な他者」からの直接情報が行動変容には有効
クラッパーと同時代に膨大な先行研究を統合したベレルソンらも、「テレビは、主要な態度に直接影響を与えることは少ない」(ベレルソン&スタイナー、1964=1966:675)と総括していた。合わせて、テレビや新聞などが報じる説得力のある内容であっても、「受け手が持つ既存の意見を変えることよりも、そのような意見を強化する」(同上:660)として、マスコミ情報による「態度補強」を強調し、「行動変容」効果には疑問を投げかけていた。これには半世紀すぎた現在でも一定の支持があり、経験則としても納得できる。
マスコミからの情報と対人接触による情報取得は、ともに学界でのコミュニケーション論の一部として論じられている。とりわけマスコミは国民に情報内容を周知させる威力がある反面、受け手の側ではその情報による態度変容や行動変容には至らないことが定説になってきた。
並行して、ソーシャルキャピタル概念に含まれる親しくて信頼のおける人からの直接情報が、態度変容や行動変容には効果的であるという学説が広く受け入れられてきた。
「コミュニケーションの二段の流れ」への配慮
その他に行動変容を論じる際には、オピニオン・リーダーによる「コミュニケーションの二段流れによって可能になる」というカッツとラザースフェルドの命題がある。
マスコミによる「インパーソナルな内容を、パーソナルな流れにつなぐ」(同上:671)ことを意味する「コミュニケーションの二段の流れ」などの古典的な仮説は、今日の新型コロナウイルス感染予防でも有効だと思われるが、専門家会議や政府にはそのような学説への配慮が全く見られないままで推移してきた注4)。
「社会のまとまり」は有益な知識獲得に役に立つ
加えて社会システムレベルでも、コロナウイルス感染予防に効果的な命題が存在する。代表的には、社会システムの結合性(system connectedness)の高さは、成員の行動変容実践に有益な知識獲得とは正の相関を示すが、変容実践を導くわけではないという発見である(Wigand,1977:161)。
ここにいう「結合性」は、個人の「粉末化」とは対極にある社会的連帯性であり、「社会と個人」という社会学の根本的な対象からすれば、「社会」に強い軸が置かれた状態を意味する。いわば社会全体のまとまりの高さを示すものである。
先進国の多くが一般論としての社会的連帯性を失い、人種、民族、言語、世代、ジェンダー、階層などに分断され、国民が粉末化して久しいが、自然災害や防犯面で被害が大きい場合は、一時的ながら社会システムはその統合性を高める機能を持っている注5)。