社会と健康
また、「社会と健康」についてミクロとマクロ表現による整理もある。たとえば、医療機関や医療従事者との出会い(medical encounter)という個人行動のミクロな領域から、健康面に内在する社会的不平等性や健康管理面での改善という社会システムにおけるマクロな領域までの統合が主張される(Fernando De Mario,2010:161-162)。
この視点は、2020年に発生した新型コロナウイルス感染によるパンデミックでも有効である。一つは、医療機関や医師との偶然の出会いが、患者本人の寿命に直結することが再確認されたからである。いつ、どのような医療機関を受診するかで、患者の生命が左右される。
医療をめぐる社会的不平等の存在
同時にアメリカをはじめいくつかの国々においては、コロナ感染を通して人種間の感染率や死亡率の差異により社会的不平等性が顕在化した。学歴や失業率などが影響する所得格差、家族や個人が所属する階層間の「生活の質」の差異、医療保険制度の有無など、世界的に見るとさまざまな不平等性が見られる。そこで新型コロナウイルス感染の第七波を迎え撃つ際にも、これらについても十分な配慮をしておきたい。
各分野の専門家が学術的成果の活用、データ収集、現状の観察を並行して行うことでしか、未曽有のウイルスに立ち向かうことはできないので、次回は新型コロナ対策にも有効と考えられる行動変容論をまとめたい。
(次回:政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑧)
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注1)「提言」では具体的な行動事例の積み上げは紹介されたが、「生活様式」(way of life)の定義は十分にはなされてこなかった。私の「新しい都市的生活様式」ついては金子(2021)を参照してほしい。
注2)株式会社クロス・マーケティングのモニターを利用。総務省「労働力調査」の最新の結果に基づいて、性・年代別にサンプルを割り当てて100%回収。 調査期間:2022年4月11日(月)~12日(火)。
注3)「社会的距離」については、英語文献だけではなく、フランス語社会学辞典でも以下の説明があることに留意しておきたい。「社会的距離は、より一般的でよく使う意味としては、多かれ少なかれ分離よりもやや大きな間隔であり、社会空間のなかで二人かもしくはそれ以上多い人々の間における地位の間隔である。それは、社会的に、民族的に、宗教的信条面でも下位文化的に見ても、異なる階級に所属する人々を指すものである。」(Boudon,R.,Besnard,P.,Cherkaoui,M.,Lécuyer,B.P.,eds,2012:65-66).
注4)この事実への配慮が皆無であったことは、日本だけではなく世界の中での社会学の地位の低さを象徴している。
注5)ソーシャル・ディスタンスに関しては、とりわけ言葉に敏感で、それを唯一の売りとしているマスコミ関係者の怠慢が目立つ。この2年半でこの言葉の使い方に疑問を抱いたマスコミ関係者は何人いたであろうか。
注6)今日では少ないながら、「キープディスタンス」を使うスーパーも出てきている。
【参照文献】
- Boudon,R.,Besnard,P.,Cherkaoui,M.,Lécuyer,B.P.,(eds),2012,, Larousse.
- Dowling,H.F.,1977,Harvard University Press.(=1982 竹田美文・清水洋子訳『人類は伝染病をいかにして征服したか』講談社。
- Fernando De Mario,2010, , Palgrave Macmillan.
- Giddens,A.,and Sutton,P.W.,2017, ,Polity Press.
- 金子勇,2021,「新型コロナウイルス感染防止の不都合な真実」神戸学院大学現代社会学会編『現代社会研究』第7号:85-112
- Park,R.E.,Burgess,E.W.,Mckenzie,R.D.,1925,, The University of Chicago.(=1972 大道安次郎・倉田和四生共訳『都市』鹿島出版会).
文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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