「ソーシャル・ディスタンス」の誤用
「テレワーク7割」が現実離れだったことに加えて、コロナウイルス感染が明らかになった時に、専門家会議や政府の記者会見そして各種マスコミで頻繁に使用されてきた言葉の誤用があげられる。それは「社会的距離」(ソーシャル・ディスタンス)の意味の取り違えである。
第一波から第六波までの日本でこの言葉は、人と人の間隔2mを指すものとして使用されてきた。首相、担当大臣、知事、市町村長、専門家会議、マスコミ他すべてがこの言葉の真意への配慮無く、無自覚なままで使ってきた。
コロナウイルス感染対策だけではないが、ここにも日本社会特有の学問的成果への無配慮が濃厚に出ている。既述したノーベル賞受賞者4氏による「科学者の勧告を政策に反映できる長期的展望」が、ここでも欠如していた。
「ソーシャル・ディスタンス」は都市社会学の用語
学術的にはこの概念は100年の歴史を持っている注3)。それは何よりもパークやバーゼスら初期のシカゴ学派で用いられた都市社会学の用語である。
たとえばパークは、「私たちの感情は、偏見と関連がある。そしてその偏見は、人や民族はおろか、無生物といったようなもの、つまり何物に対しても抱かれるのである。また、偏見はタブーにも関連しているところから、『社会的距離』(“social distances”)や現存の社会組織を維持しようとする傾向がある」(パーク、1925=1972:17)。ここでは偏見など個人感情や社会関係のレベルでのみ使用されていて、空間的距離2mを意味しない。