新しい生活様式の提唱
このような世界的なパンデミック下で、かなり早い時期の2020年5月初旬に、日本では新型コロナウイルスとの共生を含む「新しい生活様式」が、専門家会議の「提言」として国民に向けて提起された。
その項目は、① 一人一人の感染症対策、② 日常生活を含む上での基本的生活様式、③ 日常生活での各場面別の生活様式、④ 働き方の新しいスタイルに分けられている。個人行動レベルでいえば、手洗いをまめにして、三密を避け、通販も利用し、会話は控えめにして、テレワークを実践しながら、時差出勤にも留意することはもちろん必要な生活様式の一部であろう。
「新しい生活様式」もまた「医療と社会の両方の面で、社会復帰の計画」(ダウリング、1977=1982:300)の一部であろう。総論的には「基礎研究に独特な、自由な研究精神と、実用的な応用の必要性から生じる動機とがうまく組み合わされることは、よい結果を生むに違いない」(同上:423)と表現できる。
これを受けて、「新しい生活様式」に関連する「行動変容」を軸として、「社会復帰の基礎研究」の一端を述べてみたい注1)。
テレワーク7割は可能か
この2年半、「行動変容」の事例として「出勤者の7割削減」をめざした「生産行動変容」に直結するテレワークが、政府から企業に対して繰り返し要請されたことは記憶に新しい。
しかし、日本の産業構造で大きな位置を占める世界企業や大企業は2割しかなく、それに官公庁と情報関係の小企業の合計1割を除けば、現場での作業が多い製造、建設、観光、運輸、郵便、飲食、問屋、小売り、通販、医療、介護、マスコミその他で7割を占める中小・零細企業では、「テレワーク7割」は不可能であった。
たとえば、北海道信用金庫が2020年秋に実施した札幌圏と後志圏の中小企業556社への調査では、「テレワークや在宅勤務などを実施していない(実施できる業務ではない)」という回答が全体で73.8%にも達していた(表4)。
信用金庫の顧客の多くが中小・零細企業であり、データは札幌圏と小樽などを含む後志圏ではあるが、この「実施できる業務ではない」比率の高さは日本全国に普遍化できる。企業全体の7割を占める中小・零細企業では、全体の7割を超える業務がそれになじまなかったのである。