介護保険
介護保険は2000年度の4兆円で始まり、20年経過したら10兆円に届いた。要介護比率もまた少しずつ上がり、最初の10年間は要支援1と2、要介護1から5の合計7段階の比率は15%程度が続いてきた。それで「85・15」の法則と私はまとめていた。しかし、2018年の第1号被保険者(65歳以上)のみの要支援率・要介護率は18.3%であり、まもなく介護を受けない人が80%、受ける人が20%になるので、これを短縮した「80・20」の法則が予想される注7)。
認定率の内訳は表3の通りであり、要支援1と2で28%だから、要介護全体では70%を少し超え、その中では要介護1、2、3の合計が半分を占めている。
要介護に至った原因では、『高齢社会白書』によれば「その他・不明・不詳」を除くと、男性の場合の1位が脳血管疾患、2位が認知症、3位が高齢による衰弱となるが、女性では1位が認知症、2位が高齢化による衰弱、3位が骨折・転倒になる。
同じく生活保護費も徐々に増えており、介護費用と生活保護費の合計が約14兆円になっていて、今後の超高齢化を考慮すると、この両者は増えこそすれ減ることはないであろう。
国家予算と社会保障費
2021年度予算は106.6兆円であったが、データが揃った2019年度国家予算を細かく見ると、一般会計が100兆円であり、特別会計の200兆円が加わり、項目別社会保障財源は132兆円ほどになる。この内訳は、社会保険料が73兆円、公費負担が50兆円、その他収入が9兆円である(国立社会保障・人口問題研究所、2021:14)。
そして日本で稼ぎ出される国内総生産(GDP)=国民総所得(GNI)が約500兆円である。政府の目標は550兆円なのだが、それは諸般の事情でうまくいっていない。この差額の50兆円は大きな金額であり、たとえば消費税1%で2.5兆円くらいだから、2%増税でも5兆円の増収にしかならない。
ただし、GDPの算出の逆説として、災害の復旧工事でも土木業者や建設会社の増収になるために、災害が多いほどGDPも増える。これは一種のトレードオフであり、常識とは整合しない。
なぜなら、地震や火山爆発や台風などの大災害や環境破壊が多くなったり、感染症が蔓延するのは国民にとっては困ったことだが、それでも関連企業の業績は伸び、従業員への給与も増えてGDPが増加するからである。
要するに、社会システム領域間のさまざまなトレードオフ関連を認識したうえで、社会保障の議論もまた「次世代育成」という理念の中で「少子化する高齢社会」に関連させて行うしかない。加えて、ここには少子化の応用問題としての児童虐待解決があり、一貫した人口減少を伴う過疎社会の中での地方創生も大きな課題になる。「まち、ひと、しごと」もまた、「次世代育成」の観点から再構築したい。
その意味で、「こども家庭庁」はタイムリーな発足ではあるが、次世代の「こども」を「まんなか」で支えるのが現世代と前世代なので、多くの分野で世代内協力と世代間共生をめざした試練が待っている。
(次回:「政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑥」に続く)
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注1)1989年の合計特殊出生率1.57にショックを受けて、94年の「エンゼルプラン」から始められ、99年の「少子化対策基本方針」、2003年の「少子化社会対策基本法」、2004年の「少子社会対策大綱」、2010年の「子ども・子育てビジョン」までの20年間の歴代内閣でも、子どもの減少には強い危機感を持ち、様々な法整備をして「少子化対策」を行っていた。しかしその後10年が過ぎ、合わせて30年が経過した今日では、「少子化対策」を直接担当した内閣府参事官でさえ、「1990年代から30年間にわたって講じられてきた少子化対策の成果が現れなかった」(増田、2022:4)と言わざるを得なくなった。これは、この30年間の主な政策が、「子育て支援」に限定した「子ども手当」と「ワーク・ライフ・バランス」に特化しすぎたからである。これがその時代に沿って研究してきた私の結論である(金子、1998;2003;2006;2009;2014;2016)。すなわち政策理念に誤りがあり、少子化対策のための年間4兆円投入の事業焦点がずれていたことになる。2023年4月予定の「こども家庭庁」ではこの反省に立ち、日本社会の未来を見つめた理念の精緻化と事業焦点を鮮明にしてほしい。
注2)国連分担金率でも3位の日本(8.03%)、4位のドイツ(6.11%)、7位のイタリア(3.19%)の類似性については金子(2022)で触れた。なお、調査年度に若干の違いはあるもののアメリカは18.6%、中国も18.6%、イギリスは17.9%、フランス17.7%、ロシア17.0%そしてインドは28.1%であった。75年前の枢軸3カ国の年少人口率は今でも低く、連合国側の5カ国とは全く異なる出生率と人口構造が続いている。そこには人口増加を国策に盛り込むと「軍国主義」という批判が沸き上がる敗戦国、人口増加政策を堂々と公約して実行できる戦勝国の違いが75年後にも続いているという歴史文化論的な解釈もできる。なぜなら、結婚も出産もその国の文化様式の一部だからであり、したがって75年前の戦争体験の歴史が出産という行動に今でも影響を与えていても不思議ではない。
注3)なぜなら、「少子化対策」の語感では児童虐待が含まれないからである。しかし、「次世代育成」ならば、児童虐待は「育成」とは真逆の意味として包摂される。
注4)このうち「次世代としての子ども」への暴力行為やネグレクトによる「児童虐待」そして「児童虐待死」は、家族機能論としての解釈では、子どもの親が「性と生殖」に特化する反面、「子どもの社会化」と「幼弱の保護」を完全に怠った事例と位置づけられる(金子、2020)。
注5)「子育て基金」は世代内共生と世代間共生を狙う制度として位置づけられる。
注6)これには廣田のいう「共存主義」も該当する。廣田は「ポスト資本主義」を表現する用語として「共存主義」(共に助けあって生存する)を使用した(廣田、2021:290)。しかし「共存主義は、人間性を尊重し、科学的な合理性だけではなく非合理的な要素も取り込んで、スケールの大きな基礎を構築する」(同上:300)ならば、このような使用法も可能であろう。
注7)これはパレートの「80・20」法則とはもちろん異なる内容である。
【参照文献】
- 廣田尚久,2021,『共存主義論』信山社.
- 金子勇,1998,『高齢社会とあなた』日本放送出版協会.
- 金子勇,2003,『都市の少子社会』東京大学出版会.
- 金子勇,2006,『少子化する高齢社会』日本放送出版協会.
- 金子勇,2009,『社会分析』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2013,『「時代診断」の社会学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会.
- 金子勇,2016,『子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2020,『「抜け殻家族」が生む児童虐待』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2022,「『脱炭素と気候変動』の理論と限界 最終回」『アゴラ言論プラットフォーム』(2022年3月17日).
- 国立社会保障・人口問題研究所,2021,『令和元年度 社会保障費用統計 2019』同研究所.
- 増田雅暢,2022,「『こども家庭庁』の課題と『家族政策』の可能性」『月間 圓一フォーラム 5月号』No.378 圓一出版:4-9.
- Streeck,W.,2016,,Verso.(=2017 村澤真保呂・信友建志訳『資本主義はどう終わるのか』河出書房新社)
- 鈴木広監修,2001,『家族・福祉社会学の現在』ミネルヴァ書房.
文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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