政令指定都市の合計特殊出生率
最後に日本社会の死亡に関するデータを受けて、今度は社会全体の出生についてまとめておこう。合計特殊出生率は日本全国でも47都道府県でも市町村別でも明らかにされており、それぞれに利用目的に応じて活用できる。
日本全体の人口動態の全体像を押えたら、日本社会の10年先を走る大都市の動向を知っておきたい。それには東京都23区と20の政令指定都市の姿を確認することが近道になる。
図4は2018年の合計特殊出生率比較である。そこでは全国平均よりも低い政令都市が9、高い政令都市が11あることが分かる。合計特殊出生率が高い都市の多くは地方中核都市としての県庁所在都市であり、低い方は首都圏と関西圏に札幌市と福岡市が該当する。特に大阪市、札幌市、東京都23区では合計特殊出生率が低い。

出典:『大都市比較統計年報』2020年、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)
歴史的な原因と今日的な理由に配慮する
とりわけ札幌の合計特殊出生率の低さが顕著であるが、これは明治初期から単身者か夫婦だけによる移植者が多かったことがあり、家族規範が弱く、離婚率も高い。単身者も多く、家族を作ろうという意欲に乏しく、未婚率が高い。既婚者が産み控えているわけではないが、日本全体と同じく婚外子には消極的なので、未婚率の高さが自動的に出生数の低下に結び付く注5)。
いわゆる「子育て環境が未整備」といった原因への対処だけでは、政府が4兆円を10年以上費やしてきた少子化対策もまた成功しなかったのはやむを得ない。
出産や子育てもまた文化の一環を構成しているので、自治体の歴史に配慮した原因と今日的な子育て環境のうち男女の働き方の見直し、乳幼児の育児施設とスタッフの増員、子育て世帯と子育てしない世帯との費用負担の差異の改善、高騰した高等教育費用の社会的負担などを合せた対応が急務になっている(金子、2016)。
(次回:「政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑤」に続く)
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注1)その意味では「こども家庭庁」が新しく設置されることに期待が持てる。
注2)「業績性と帰属性」はパーソンズのパターン変数の一部である(パーソンズ、1951=1974)。
注3)国単位で見ても、世界全体の普遍的平和ではなく、自国の安全を最優先して侵略戦争を継続する個別性がロシアによるウクライナ侵略戦争では鮮明に認められる。
注4)「ローバル時代」の世界システムの特徴として、一定以上の国内人口を背景にした個別空間的な「コモンの成長」を優先する力学が働き、世界システムの普遍性と衝突する傾向が顕著になる。これは半世紀前にエンジェルがのべた命題、「対立する利害は、新しい統合によってのり越えられなければならない」(エンジェル、1965=1970:110)を証明する出来事である。すなわちロシアによるウクライナ侵略戦争をめぐって、UN(国連)という「世界包括主義」のなかで、新しい「ロ-バリズム」という「地域結束主義」が登場したと解しておきたい。
注5)札幌市の少子化の原因と対策については金子(2016:82-85)を参照。
【参照文献】
- Angell,R.C.,1965,“The Sociology of Human Conflict.”in E. B. McNeil,(ed.),. Prentice-Hall,Inc:91-115.(=1970 袖井孝子訳「紛争の社会学」千葉正士編訳 『紛争の社会科学』東京創元社):92-119.
- 金子勇編,2003,『高田保馬リカバリー』ミネルヴァ書房
- 金子勇,2013,『「時代診断」の社会学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2014,『日本のアクティブエイジング』北海道大学出版会.
- 金子勇,2016,『子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2022,「政治家の基礎力②ローバル時代の政治家」アゴラ言論プラットフォーム(2022年5月1日)
- 高田保馬,1948=2003,『階級及第三史観』(高田保馬・社会学セレクション2)ミネルヴァ書房.
- Parsons,T.,1951,,The Free Press.(=1974 佐藤勉訳『社会体系論』青木書店).
文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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