論理矛盾の「環境再生的な設計」
残りも言わずもがなであり、本書全体が「法則」にはもともと無縁だが、実のところ「環境再生的な設計」(:307)にすらなっていない。むしろ論理矛盾すら散見される。
たとえば「善の程度を上げる」(:312)ことをめざして、「現在、再生エネルギー、とりわけ太陽光発電のコストが急速に安くなっている」(:371)から、「クリーンエネルギーは、環境再生的な経済の要のエネルギー源になる」(:341)という認識で、「再エネ」導入への強い思いが全篇で語られる注34)。
その反面で、「山の斜面から樹木が伐採されたら、どうなるか」(:74)とも問いかけ、「生物多様性の喪失を加速させ、水の循環を妨げ、気候変動を悪化させる」(:74)ともいう。
「再エネ」導入と「山の斜面からの樹木の伐採」の間に共存性がありえないことは、山の斜面の樹木を伐採して、代わりにそこに盛り土して巨大な太陽光発電装置を据えた結果、2021年夏に集中豪雨により熱海市で土石流が発生して、多数の人命が失われた事件を上げておけば十分であろう(国際環境経済研究所WEB連載(その2)参照)。
NHK報道も変わり始める?
なお、あのNHKでさえも、「太陽光パネル“大廃棄時代”がやってくる」(2022年1月14日)と「どうする!?太陽光パネルの“終活”」(2022年2月4日)を番組で特集したことも追記しておきたい。
(次回:「脱炭素と気候変動」の理論と限界⑦に続く)
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注30)「価値」や「目標」それに「人類の幸福」ならば、政治経済学だけではなく社会学や心理学などを利用しなければ正確な把握はできない。
注31)私が「準拠集団」を学んだのはマートン(1957=1961)だが、社会心理学ではそれ以前にもニューカム(1950=1956:224-225)などでも、この「レファランス・グループ」(reference group)概念は詳述されていた。ただし、同時代に刊行された日本で最初の本格的な『社会学辞典』(1958:958)では、「照準集団」という訳語も併記されていた。当時も今もreferenceを「照準」と訳すほうが調査データ分析では分かりやすいと考えている。なお、同じ有斐閣の『社会学小辞典』(1977:398)では、「レファレンス・グループ」が見出しに採用されていて、「準拠集団」と訳が付けられている。その後の『新社会学辞典』(1993:722)になると、見出しが「準拠集団」に統一された。
注32)当時の社会指標運動については、Land & Spilerman(1975)や三重野(1984)に詳しい。
注33)この結論と出発点のズレは、日本の少子化対策論でも顕著である(金子、2016)。すなわち、「子育てしやすい環境づくり」や「子育て世帯の支援」を研究の結論とする「少子化対策」論が多すぎる。しかしこれは論議の出発点であり、「子育てしやすい環境を作り出す方法とは何か」、「子育て世帯の支援には毎月いくらの支援金が出せるか」、「その子育て支援金の財源は税金だけか、国民も負担する子育て基金制度を併用するか」というような具体策を積極的に研究した解答をそれぞれの研究者が提示して、国民的な議論を深めていきたい。
注34)「再エネ」の価格が原発や火発に比べて割高なことは、国際環境経済研究所「WEB連載その5」(金子、2021-2022)で証明した。
【参照文献】
- 福武直ほか編,1958,『社会学辞典』有斐閣.
- 濱島朗ほか編,1977,『社会学小辞典』有斐閣.
- 金子勇,2008,「社会変動の測定法と社会指標」金子勇・長谷川公一編『社会変動と社会学』ミネルヴァ書房:103-128.
- 金子勇,2016,『日本の子育て共同参画社会』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2021-2022,「二酸化炭素地球温暖化と脱炭素社会の機能分析」(第1回-第7回)国際環境経済研究所WEB連載.
- 国民生活審議会生活の質委員会,1979,『新版 社会指標』大蔵省印刷局.
- Land,K.C.& Spilerman,S.,(ed.),1975,Social Indicator Models, Russel Sage Foundation.
- Merton,R.K,1957,Social Theory and Social Structure,The Free Press.(=1961 森東吾ほか訳『社会理論と社会構造』みすず書房).
- 三重野卓,1984,『福祉と社会計画の理論』白桃書房.
- 森岡清美ほか編,1993, 『新社会学辞典』有斐閣.
- Newcomb,T.M.,1950,Social Psychology, The Dryden Press, Inc. (=1956 森東吾・萬成博訳『社会心理学』培風館)
文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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