アメリカの専門家にとっても上記のロシアにとってのウクライナの位置づけは当然承知しているはず。NATOの東方拡大、すなわちウクライナのNATOに加盟を容認すれば、ロシアがウクライナ周辺に戦力を結集している現状において、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を予見することは容易であろう。むしろ、ウクライナへの軍事侵攻を待っていた可能性さえあるのではないか。
これはアメリカと西欧諸国によるロシアに対するあおり運転そのものと言ってもいいだろう。あおり運転をして、被害者が正当防衛として殴りかかってきたら110番して暴行現行犯で捕まえる、という悪質な犯罪者に重なって見えてしまう。
そんな中で唯一ロシアの意図に理解を示したのがフランスのマクロン大統領。7日の記事から。
6日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)がインタビュー記事を掲載した。マクロン氏はその中で「ロシアの地政学的な目的はウクライナではなく、NATOとEUと共存するためのルールをはっきりさせることだ」と分析した。領土拡張が第一の目的ではないとの見方を示した。
フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領は7日、モスクワで会談した。8日の記事。
約6時間続いた会談後の記者会見で、プーチン氏は「ウクライナ情勢が平和的に解決することを望んでいる。事態打開の土台となる提案もフランス側からあった」などと語った。マクロン氏も「いかなる状況の悪化も防ぐよう努力しなければいけない。意見が一致する点も見つけた」と応じ、議論の成果を強調した。
(中略)
ロシアが求めるNATOの東方拡大停止を米国などが拒否したことに、プーチン氏は「ロシアの抱える中心的な懸念は残念ながら無視された」と不満を述べた。マクロン氏は拡大停止を決めるのは現実的ではないとの考えを示した。
ロシアの主張の焦点はウクライナの中立化だ。米欧にとって戦争の回避が最も重要な課題であるなら、欧米側から、「欧米は高所的判断からウクライナのNATOへの参加を認めないもしくは中立化を望む、一方ロシアはウクライナの独立を尊重する」(ただし東部問題は別)、とでも示唆すれば侵攻を回避することは可能なはずである。それでもロシアが侵攻したら事態は全く異なるが、侵攻は生じなかった可能性は大きい。なおマクロン氏が述べた「拡大停止を決めるのは現実的ではない」理由についての記述は記事にはない。
事態は改善の兆しを見せないままロシアはウクライナへの軍事侵攻へと導かれていく。欧米、特にアメリカにとっては、ロシアのウクライナへの侵攻を待ち、この機にロシアを極悪人に仕立て上げ、ロシアの国力を一気に葬ることが当初からの目的だったように思われてならない。むしろ戦争を望んでいたのはアメリカである疑いは否定しがたいという見方も可能である。アメリカにとっては、ロシアが侵攻した後は刻刻と変化する侵攻行為そのものを日々非難してさえいれば正義の味方になれる。軍事侵攻自体を擁護する国はありえないから。まさにあおり運転の確信犯。