4.時間は巻き戻せない
上記3.でロシアの理屈を書いたが、残念ながら、時間は巻き戻せない。外交というのはアクションとリアクションの連続であり、NATOの行動がロシアを刺激したように、ロシアの行動もウクライナを変えてしまっている。2014年のクリミア侵攻前には、ウクライナ人におけるNATO加盟希望は大して多くなかった。それが、ロシアによるクリミア侵攻後は、圧倒的に多くのウクライナ人がNATO加盟を希望するようになった。ロシアの脅威を感じれば感じるほど反ロになり、ロシアからの安全を求める気持ちが強まれば強まるほどNATO加盟志向が強くなるのは当然のことだ。台湾をいじめればいじめるほど台湾が中国支配を嫌悪するようになるのと同じことだ。
今回のロシアによるウクライナ侵攻により、ウクライナ人民はロシアに対する敵意を強め、ウクライナが民主主義国である以上、いくらロシアがロシアの傀儡政権を樹立し親ロ派の大統領にすげかえようとしても、それは不可能となるだろう。ロシアは、ウクライナのNATO加盟阻止やもしかしたら「中立化」を獲得することはできるかもしれないが、それはウクライナとの安定的な関係を意味しないだろう。残念ながら、東部は別にして、ウクライナにとってロシアは「敵」になったのである。ウクライナはますます反ロとなり、益々西側志向を強めることは必至だ。それは、ロシアにとってより安全な国境を意味するのかどうか。戦術的には正しくても、もしも、国境を安全にするという観点からは戦略的にはマイナスかもしれない。もっとも、プーチン大統領は、それも織り込み済みで、時間がたてばそんなこともいつか忘れられるのだというかもしれないが。