5. 5Gは衛星データサービスまで繋がる!?生活変化やサービス活用事例と注目企業
5Gの普及に伴って、私たちの生活を変化させるサービスの提供がどんどん浸透していくことが予想されています。ここでは、5Gの強みである「高速大容量」「低遅延」「同時多数接続」を軸に、どのようなサービス活用が見込まれているかを紹介します。
5Gの強みを総動員したモビリティーサービス
5Gの応用例として最も注目されているのが、モビリティーサービスです。よく耳にする自動運転も然り、コネクテッドカー(常時インターネット接続する車)や自動車保険などにも5Gが大きな変化をもたらすことが期待されています。
車の自動運転の流れは、車に搭載される様々なセンサからの情報を集積し、それらを解析した結果をフィードバックとして与え、走行を制御するというものです。センサが集積したデータを送りきれない、フィードバックをもらうまでのスピードが遅い、そもそもその環境が整っていない、などの課題を5Gが解決することが見込まれています。
冒頭にも書きましたが、5Gになることで、通信遅延は従来の10倍の改善が期待されています。この数値が今後の自動運転が発展するためには非常に重要です。
例えば、時速60kmで走行中の車が次にどのような動きをするべきかを判別する際に大きな差を生み出します。4G/LTEまでの50 ミリ秒の遅れの場合、約50 cm車は進んでおり、その分だけ誤差が生じる可能性があります。遅延が10倍改善されることでこの誤差を数センチ単位まで抑えることができるため、この遅延の改善は非常に重要な側面を持っているといえますね。
実際は自動運転の自動化度合いが最高レベルに達するには2030年以降6Gが本格化してきたタイミングであるとされていますが、5Gでもそこに繋がるデータの蓄積が重要視されています。

Source : mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/、『宙畑』より引用)
自動運転に繋がる最も重要なサービスが「コネクテッドカー」とも言えます。常にインターネット接続する自動車は、5Gによってそのデータ集積が加速すると見られています。その中で注目されているのが自動車保険です。自動車保険では車のエンジンの状況、急ブレーキなどの運転状況、社内状況などもモニターし、被保険者のリスク度合いを評価することができるシステムが構築されつつあります。
5Gの世界では、このように関連技術やサービスを提供する企業の株価が上がってくると予想できます。上記以外にも、周囲の車や環境、地域の情報をフロントガラスに投影することで事故防止や運転の判断材料を提供する技術など、さまざまな技術が5G導入後に普及していくことも予想されています。5Gは日本中でのサービス展開が確実視されているインフラなので、直接的に関わりそうな通信事業者だけでなく、自動車産業及びそこに関わる技術提供の会社の株価にも注目です。
5Gで激変するエンターテイメント
5Gサービスでモビリティー同様に注目されているのが「エンターテイメント事業」です。スポーツ観戦やライブなどで、自分が好きなアングルで楽しむことができたり、VRやARなどを用いた没入感の高いエンターテイメントを実感できるようになることが期待されています。

Credit : IDEAL
Source : idealsys.com/jp/home/、『宙畑』より引用)
5Gの特性の一つである「同時多数接続」。これまで限りある台数のカメラで捉えられていたスポーツやライブの映像ですが、これからは100台規模のカメラによるマルチアングルでの鑑賞が加速します。これらのデータを一挙に集積し、会場内外の観客にオンデマンドのアングルを提供することが可能になります。これは同時接続可能な端末数が桁違いに増加した5Gならではのサービス提供です。
さらに低遅延かつ高速大容量な通信によって、VRやARなどのデバイスを利用した没入感の高いエンターテイメント事業も、5Gによって伸びてくることが期待されています。5G関連の企業では、マルチアングルカメラやVR、ARを導入しているエンターテイメント事業を軸に、そのカメラメーカーやデバイスメーカー、通信を円滑に進めるための基盤作りをするシステムインテグレーターに注目です。
宇宙分野では、ANAやJAXAが主導で動いているAVATAR Xプロジェクトが注目を集めています。VRやロボティクス、センサ、ハプティクス(触覚)などを融合させて、異なる場所に設置した遠隔ロボットの「アバター(分身)」に接続することで、あたかも自分がその場所に存在しているかのような動きが可能になるものです。この取り組みの最終ゴールは月や火星表面に自分がいるような体験ができることであり、今後注目の宇宙トピックの一つです。
キャッシュレス決済は「タッチレス決済」へ
5Gで注目なのは、信頼性の高い高速通信によって可能になる自動決済や認証機能です。特に注目を集めているのが、キャッシュレス決済の次世代版である「タッチレス決済」です。
キャッシュレス決済を実際に使っている方は、多いのではないでしょうか?QRコードをかざして、カードのICチップでかざして、スマホをかざして決済を行うことは日常となっているかと思います。
5G時代の決済では、それがさらに簡略化され、カバンの中にスマホが入っている状態で改札が通れて、コンビニではレジを通らずに商品を購入できる「タッチレス決済」が一般化される見込みです。
5Gの技術面を前の章で書きましたが、5Gで使う電波の周波数は非常に高いため、遠くに電波を運びづらいという難点を持っていました。しかし周波数が高い分、一度に多くのデータを素早くやりとりできる利点もあります。
タッチレス決済ではこの弱点を逆手にとって、入口及び出口のゲートに、高周波数で短距離のみ通信できる仕組みを搭載し、ゲートを通ったスマホとのみ通信するようにしました。これによってカバンやポケットに入っているスマホとのみ通信が可能になるので、あとはキャッシュレス決済と同じ要領で決済が完了します。もしかしたら、5Gの恩恵を最も感じるのはこの瞬間かもしれません。

Credit : Amazon
Source : amazon.jobs/jp/business_categories/amazongo、『宙畑』より引用)
アメリカでは5G通信を利用せずともレジを通すことなくカバンに入れた商品が、出口で勝手に決済される「Amazon Go」という無人コンビニが実際にあるなど、タッチレス決済の試験運用はどんどん行われています。筆者もシアトルにある店舗で体験しましたが、万引きしてしまっているような不思議な感覚の中で決済が完了していました。
日本のコンビニや、鉄道の改札、スポーツ観戦やライブ鑑賞の入り口もこのような決済方法が敷かれれば、人件費や安全を確保でき、各社の売り上げ向上が見込まれるのではないでしょうか。加えて、タッチレス決済を可能にするゲートが製造できる会社や、通信を応用するソフトウェア開発の会社の今後の動向にも注目です。
6. 5Gが提供される国内外のエリア
日本国内での5G通信サービスの提供は既にスタートしています。ただ、基地局の配備が進行中のため、2021年現在は一部地域でのサービス提供にとどまっています。ここでは、5Gの提供範囲や各通信事業者の目標値をまとめるだけでなく、海外の5Gサービスの提供国や、逆に制限がかけられている国の動向もまとめています。
日本国内の5Gサービスの提供は既に始まっています。基本的な普及の流れとしては、まずは東京や大阪などの主要都市からの提供となり、その後政令指定都市を中心に拡大し、その他地域に広がっていきます。
今回5Gの全国への普及にあたって注目したいのは、政府から各通信事業者に対して要求されている「カバー率」です。4Gまでの通信では「人口カバー率」が重要な指標とされていました。日本で、どれだけの人に4Gサービスを提供できるか、という意味合いを持っています。
一方で、5Gからは「エリアカバー率」が到達目標の指標として設定されています。これは日本の面積をどれだけカバーしたかを示す指標です。IoTデバイスなどのセンサ類との通信も見込まれているため、単に人口密度が高い場所をカバーすればいいということではなく、国内の広範囲をカバーする必要があるという側面から設定されている目標値です。人がいない地域こそ、IoTデバイス等で状況を監視する必要がありますよね。

Credit : KDDI、『宙畑』より引用)
KDDI、ソフトバンク、docomo、楽天の主要通信事業者らは、2024年までに日本を10km四方で4,500地区に切った全エリアの50%をカバーすることを、5G利用の条件として総務省から要求されています。これに加え、2021年には全都道府県に基地局を作ること、その後できるだけ多くの基地局を開設することが条件になっています。この条件があるからこそ、人口が多い地区だけをカバーするわけにはいかないのです。
エリアカバー率が事業者にとって重要な指標になる一方で、ユーザ側で最もわかりやすいのはやはり「自分が使えるかどうか」でしょう。これは「人口カバー率」という指標で表されており、通信事業者各社も人口カバー率を5Gの普及率としてユーザに向けて公表しています。
auは2022年3月までに5万基の基地局を全国に配置し、人口カバー率90%を達成することを目標としています。ソフトバンクも同様に、2022年春までには人口カバー率90%を達成することを、2021年5月の株主総会で発表しています。一方でdocomoは、2022年3月の人口カバー率は55%と、他2社に比べると低い達成水準になっています。5G通信でカバーされているエリアは各社ホームページで確認できるので、ぜひご自分のお住まいの場所や職場をチェックして、5Gへの対応を検討してみてください。
通信会社 | 2022年春時点での人口カバー率目標値 |
au | 90% |
Softbank | 90% |
docomo | 55% |
国外では、「世界初の5Gサービス提供」のポジションを、アメリカと韓国が争っていました。この争いは、両者が予定よりも発表を早める奇策を講じたものの、韓国が先んじて発表したようです。その他にもアジアでは中国、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランド等、ヨーロッパではイギリス、フランス、ドイツ、スイスなど主要国でサービスがスタートしています。
余談となりますが、スイスでは、5G通信の健康被害の懸念から、サービス提供が停止するという報道がされたようですが、健康被害の科学的な証拠がないことから、局面は大きく変化せずにサービスがスタートしたようです。
日本国内でも健康被害の意見は上がっています。そんな中、総務省やdocomoがそれに対して科学的な検証結果を公表しています。総務省は「電波防護指針」という資料の中で、5G通信によって健康被害が発生するとは考えにくいという見解を示しているので、気になる方は是非一度読んでみてはいかがでしょうか。