3. 通信技術の進化の歴史~1Gから5Gまで~

5Gを語る上で欠かせないのが、これまでの通信の歴史です。5Gは「5th Generation = 第5世代」を意味しますが、5番目というくらいですから、1G(第1世代)からの進化の歴史があります。ここでは、5Gが変える世界の話ではなく、通信規格が1世代上がるごとにどんな変化があったのかを解説し、5Gにどれだけ期待できるかを実感していきましょう。

5Gって何?を基礎から徹底解説。5Gのメリット・デメリットと期待される活用事例
(画像=『宙畑』より引用)

まずは第1世代(1G)です。1Gの主なサービス内容は、音声通話のみでした。その始まりは、1979年に日本電信電話公社(現、NTT)が自動車に搭載する電話を発表したものだと言われています。その後、1980年代に自動車以外でも通話が可能な「携帯電話」が誕生します。アナログ式の通信で、音声を電波に直接のせることで通話を可能にしていました。

続いて第2世代(2G)です。1Gからの大きな変化は、通信方法がアナログ式からデジタル式に変化し、インターネット通信が可能になった点です。通信内容を0と1のデータに変換して通信を行うため、電波の帯域によって制限されていた通信容量の改善や、通信ノイズの除去が可能になりました。デジタル式の通信は今もなお使われていることから、ここが大きな分岐点であったといえるでしょう。この変化によってテキストをメールで送受信できるようになった他、ブラウザを通してインターネットで検索できるようになりました。

第3世代(3G)は2001年からスタートしました。2Gに比べて大容量のデータを送受信できるようになったため、ブラウジングや低容量動画、写真の送受信などの面で大きくサービスが改善されました。3Gからは初めて国際基準の通信規格が決まったことも、1G、2Gとは大きく異なる点です。国際基準ができたことで、世界中の端末が国を跨いでネットワークに接続できるようになり、インターネットの世界が携帯電話に向けて開かれたという利点がありました。3Gの後半では、スマートフォンの先駆けとなるiPhone 3Gが発売されましたが、基本的にはフィーチャーフォン(ガラケー)が主流の世代です。

2012年から、大容量(高精細)の動画コンテンツやオンラインゲームなどが可能になる第4世代へと移ります。2021年現在も4G回線を使っている方の方がまだ多いくらいなので、細かい説明は必要ないかもしれません。国際標準規格としてスタートし、主にスマートフォンでサービス利用されています。通信速度と容量が格段に上がり、その利便性から世界中でスマートフォンの利用者が拡大したのも注目ポイントの一つです。

このような変遷を経て、2020年から5Gがスタートしました。5G通信では、4Gを全面的に桁違いの性能へと格上げする方向で改善されています。この記事を通して、5Gが変える未来を想像し、可能性を感じていただければと思います。

4. 知らないと損する5Gを支える3つの要素技術

世界に変革をもたらす5G通信を実現するために、様々な技術革新が起きました。こちらでは、5Gを特徴づける3要素「高速大容量」「低遅延」「同時多数接続」を支える要素技術を紹介します。5Gの通信技術は、宇宙ビジネスとの相性の良さに注目が集まっているため、その要素技術にも注目です。

【高速大容量の通信を支えるビームフォーミング技術】

5Gになって最も私たち利用者が進化を実感するのが「高速大容量通信」です。高速大容量通信を実現する上で注目するべきキーワードは「周波数帯」と「ビームフォーミング技術」の2点です。

まずは周波数帯について。簡単に言えば、周波数を高くすることで、時間あたりで伝送できるデータ量が増えるので通信容量を高めることが可能です。
5Gではこれまで使われてこなかった「サブ6帯」と呼ばれる6GHz以下の周波数帯(3.7 GHz帯と4.5 GHz帯)と、「ミリ波帯」と呼ばれる28 GHz帯を利用します。4Gまでは最も高い周波数で3.5 GHz帯までしか使用されていませんでした。

今まで周波数を高めることができなかった原因の1つに、遮蔽物の影響を受けやすいために周波数を高めることで長距離のデータ伝送ができなかったことが挙げられます。「もっと高い周波数を使えば、もっと早く大量のデータを届けられる!」というシンプルな課題を解決したのが「ビームフォーミング技術」です。

5Gって何?を基礎から徹底解説。5Gのメリット・デメリットと期待される活用事例
(画像=『宙畑』より引用)

ビームフォーミングとは、複数の電波アンテナから少しずつ違うタイミングで電波を放射することで、それらが重なり合い、指向性が高く強力な電波を送ることができる技術です。電波によってユーザの位置を概ね特定することで、通信する端末一つ一つを狙い撃ちして通信を行うイメージです。

以上の技術の発達によって、より高い周波数の電波を利用することができるようになり、5Gの「高速大容量通信」が実現しました。

【低遅延を支えるエッジコンピューティング】

5G通信で注目なのが、遠隔操作やVRなどのサービスの質を向上させる、通信の「低遅延性」です。それを支えるのが、「エッジコンピューティング技術」です。5Gを語る上で欠かせないこの技術。今のうちに理解しておかないと、今後の通信技術の発展や、宇宙開発の技術への理解が難しくなってきてしまいます!

通信の世界における「遅延」は、送った情報が相手に届くまでの時間の遅れを指す言葉です。この遅延が4Gに比べて10倍改善されたのが5Gです。これによって、通信遅延は1 ミリ秒と非常に短くなりました。では、なぜ遅延をここまで抑えられるようになったのでしょうか。それはザックリいうと「通信にかかる絶対的な距離が短くなったから」です。そして、それを支えるのが「エッジコンピューティング技術」です。

5Gって何?を基礎から徹底解説。5Gのメリット・デメリットと期待される活用事例
(画像=『宙畑』より引用)

上の図で説明します。今回はスマホを使って、ネット上の情報を閲覧することを例にしてみます。従来の通信(図の上側)では、スマホからページを閲覧するボタンを押すと、その通信の命令は近くの基地局に飛ばされ、その情報がコアネットワークを経由してサーバーに繋がります。

一方でエッジコンピューティングを行えば、基地局がサーバーの役割を担うことになり、実質かかる通信の「道のり」が短くなります。通信事業者から見たインターネットの端(エッジ)にあたる基地局でコンピューティング処理を行うことから、「エッジコンピューティング」と言われています。

「エッジコンピューティング」は、何も通信事業者だけのための言葉ではありません。
例えば人工衛星に搭載されたAIが、衛星データの一次処理を衛星軌道上で行うこともこの技術に当てはまります。人工衛星は、地上との通信時間が限られていたり、一度に地上に送れるデータ量も限られているので、これまでは必要最低限の計画的な観測しかできませんでした。しかし、エッジ処理が可能になることで観測の必要・不要を計画せず大量の観測データを確保し、AIが重要と判断したデータのみが地上に送信される仕組みが実装されてきています。
このように、様々な分野でも浸透してきているエッジコンピューティング技術が、5G通信の低遅延性を支えているのです。

【同時多数接続を支えるグラントフリー技術】

5G通信の3つ目の特徴が「同時多数接続」です。IoT端末や自動運転用のカメラなど様々なセンサがインターネットを経由した同時接続を要求しており、今後は現実世界の出来事がどんどんデータとして蓄積されていきます。このように多くのデバイスが”同時に”、”大量に”接続することを可能にするのが「グラントフリー方式」の通信です。

5G通信では、一つの基地局が処理できる通信端末数が4G通信の100台程度から、1万台程度と約100倍まで跳ね上がります。これはスマートフォンなどの従来の通信端末だけでなく、IoT製品の普及によってあらゆる場所にセンサが搭載され、それらの通信も一挙に担うことができることを意味しています。

5Gって何?を基礎から徹底解説。5Gのメリット・デメリットと期待される活用事例
(画像=『宙畑』より引用)

このように多くの端末を一つの基地局で処理し切るには、従来の通信方式では実現が難しく、そこで用いられたのが「グラントフリー方式」です。これまでの通信で必要だった基地局と端末とのやりとりの一部を排除することを選んだのがこの技術。従来の通信で必要だった、端末が基地局と通信をするために必要だった通信の事前許可の申請とその承認を排除したのです。

この処理の排除によって、端末から基地局に直接データを送信することが可能になった一方で、データが欠損するなどのリスクが高まる弊害もあります。これまでは、ある端末が通信を行う基地局において、他の端末が同時に通信を行おうとした時に、通信のバッティングが起きて障害が発生しないように、枠を細かく分けていました。しかし、この枠の設定があると通信可能な端末数が限られてしまいます。そこで、通信の枠を取っ払って、誰でもいつでも基地局と通信ができるようにしたのが、今回の「グラントフリー方式」です。5Gではそのバックアッププランも設計されているため、正確な通信が可能になったので実現に至りました。このプロセスの削減は上で説明した「低遅延性」の実現にも貢献しています。

この同時多数接続は、今後周囲のセンサが増加し、IoT関連のサービスや自動運転などを目の当たりにするまでは実感しづらいものではあるものの、今後確実に私たちの生活を変化させうる重要な役割を担うので、「グラントフリー方式」の重要性は認識しておくといいでしょう。


宙畑メモ
5Gのように世の中に変革をもたらすには、革新的な要素技術の発展が必要不可欠!4Gから5Gレベルで今後の宇宙開発を変革する要素技術についてまとめた記事もあります。