(本記事は、望月禎彦氏、髙橋恭介氏の著書『簡単なのに驚きの効果「部下ノート」がすべてを解決する』アスコム、2018年10月29日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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部下にかける時間が短くなり、自由な時間が増える

できる部下がいないのは当たり前

できない部下が多くて困る。

部下の後始末に追われて、自分の時間が持てない。

どれだけ時間をかけても成長しない。

どうしてできないのかわからない。

どうせすぐに辞めるから、育てる意欲がわかない。

返事はいいんだけど、聞いていない。

外国人だからなあ……。

中小企業で研修を実施したり、講演したりすると、そういう声をよく耳にします。しかし、それが普通であることを、まず上司は理解してください。

優秀な人材にめぐりあう確率は、本当に低いです。

優秀な人材は、一度言ったことを理解し、実行に移せます。

自分自身で判断し、やり方を考え、実行できる人ということになるでしょう。

そんな部下なら、時間も取られないですし、上司があれこれ言わなくても、1人でどんどん成長してくれます。部内の業績も上がるのではないでしょうか。

しかし、そういう優秀な人材は、採用市場にそれほど多くいるわけではありません。全体の20%くらいと考えたほうがいいでしょう。

それを大企業含めてすべての会社で奪い合うわけですから、「優秀な人材」が自分の部下になることはそうそうないことなのです。自分のことを考えてみてください。その20%に入っていると自覚できる人がどれくらいいるでしょうか。

みんな最初は「できない部下」なのです。

ただ、やり方次第で、「できない部下」を「できる部下」にすることはできます。

それによって上司の仕事はラクになり自由に使える時間が増えます。ストレスは減り、社内での評価も上がり、会社の業績が上がることにもなるでしょう。

その方法が、本書で紹介する「部下ノート」です。

左のように、日々、ノートに部下を見ていて気がついたこと、どういう指導をしたのかを、1行書き込むだけ。

日々の業務にちょっとした習慣をプラスするだけです。

それが、最終的に、ノートを書き込むために費やした時間の何十倍もの時間を自分のために使えるようになるのです。

別に誰に見せるわけでもないのですから、殴り書き、走り書きで構いません。

気づいたときに、ささっと書いてください。

まずは、1ヵ月続けてもらえれば、その効果を実感でき、3ヵ月続けてもらえると、本当に部下が成長していく姿を目の当たりにできます。

部下が育ち、業績が大幅にアップする

「部下ノート」で部下の弱点を克服する

「あいつがもう少し頑張ってくれたら」
「彼女のプラス分が、彼のマイナス分で帳消しか」

幹部社員(上司)の評価は、基本的に担当する部署の成績で評価されます。

できない部下ばかりだと、上司1人が頑張っても、上司の社内評価はダウン。できる部下が1人いても、まわりのできない部下が足を引っ張れば、やはり上司の評価は下がります。

上司がやらなければいけないことは、部署全体の底上げ。「できない部下」を「できる部下」に近づけることなのです。

そのために必要なことは、できない部下の長所と弱点を把握することです。ただ「できない」でなく、何ができないのか、どうできないのか、どこに苦労しているのか、どこが間違っているのか。部下1人ひとりの弱点がわかれば、それぞれに弱点を克服するためのアドバイスができます。

部下の行動をノートに記録していくと、それぞれの特徴がわかってきます。それぞれの弱点が見えてきます。数字ではわからない部下1人ひとりの弱点に気づけるのが部下ノート。だから、最短距離で部下が弱点を克服できるのです。

できない部下の底上げができると、自然に部署全体の成績は上がります。すなわち、上司自身の評価も上がるということです。

最初の1ヵ月は、部下の弱点把握を重視

神奈川県内に8店舗を展開する、社員数110人のクルマ販売会社B社のある店舗のK店長も、なかなか売上が伸びない部下に頭を抱えていました。しかも、トップ営業社員が多店舗へ異動することになり、現メンバーの底上げはK店長に与えられた使命でもありました。

そこでK店長が始めたのが、部下ノート。

7人いる営業社員の強みと弱みを改めて見直すことで、営業力を底上げできないかと考えたのです。営業社員にも、それぞれに特徴や性格があり、売り方も人それぞれ。もちろん、そのやり方で売れることもありますが、お客さまによっては不適切な対応になるときもあります。

それに気づかないまま営業すれば、当然、結果に偏りが出てきます。まったく売れない時期も出てくるでしょう。そこで結果にネガティブになれば、売れるものも売れなくなってしまいます。

K店長は、部下ノートを書き始めて最初の1ヵ月は、まず、部下の行動や部下とのやりとりを、ただ書き留めるだけにしました。内容はこんな感じです。

○○さんは、月末の書類整理に追われている私を見て、「やれることがあれば声をかけてください」と気にかけてくれた。

○○さんは、商談のたびに、細かく報告をくれる。私が日々言っていることを実践しているだけだが、この素直さを先輩たちも見習ってほしい。

○○さんに、地域の奉仕活動の一環として駅前の清掃活動に参加してくれないかと相談したら、嫌な顔をすることなく引き受けてくれた。

○○さんは、半日がかりの仕事を終えて店舗に戻ったら、疲れも見せずに早々にお客さま対応。

これまではすぐに表情に出ていたが、大人になった証拠か。

K店長は、自分が抱いている部下へのイメージと実際を客観的に見ることで、部下の弱点を把握し、指導のポイントを整理することから始めたのです。

鳴かず飛ばずの部下がエリアNO.1に

2ヵ月目以降からは、部下ノートに記録した情報をもとに、忘れがちな部分をこちらから逐次確認するなど、営業社員に個別にアドバイスを送るようになりました。

結果はというと、それまで可もなく不可もなくだった若手営業マンLさんが、突然覚醒したのです。

近隣販売会社との3ヵ月間の販売コンテストで、断トツの1位を記録。

Lさんの直近1年間の販売実績は月間平均4.5台でしたが、3ヵ月合計で、なんと38台も売ったのです。

これにはK店長も驚きでした。できない部下が、突然、「できる部下」になったのです。Lさんの活躍もあって、店の実績も大きくアップ。

クルマが売れないといわれる時代に、前年比152%を達成しました。

もちろん、K店長の評価が社内で高くなったのは当然です。

部下ノートによる同じような効果は、群馬、栃木、茨城県に展開するタイヤ販売業のC社でもありました。

宇都宮店の店長のMさんが部下ノートをつけるようになったところ、3ヵ月でスタッフ個々のクロージング(お客さまの商品購入)率が急上昇し、平均15%改善しました。

店長になったばかりのMさんの悩みは、成績が悪いスタッフに、どう接すればいいのかわからないことでした。そこで部下ノートで1ヵ月間、その行動を記録するようになったところ、まずスタッフの動きや表情をよく見るようになりました。

2ヵ月目になると、ノートに書き留める回数も増え、動きや表情だけでなく、スタッフの体調まで見られるようになります。そして、ノートをネタに個々に話す時間をつくるようになり、スタッフの性格も把握できるようになります。

そうなると、あとは具体的な仕事のアドバイスをするだけ。

スタッフ個々の性格を理解したうえでのアドバイスが功を奏したのでしょう。

部下に感じていたストレスから解放される

「部下ノート」で上司のイライラはなくなる

「昨日も定時に帰れなかったって、今は仕事のピークなんだから」
「あいつ、電話の声が小さいんだよな」

できない部下と仕事をしていると、部下の些さ細さいな言動についイライラしてしまいます。忙しくなってくると、さらにその反応は敏感になるものです。

客観的に見るとたいしたことはないのはわかっているのですが、根っこに「何度言ってもわからないやつ」とか「おまえのために自分の時間が取られている」という思いがあるだけに、つい反応してしまいます。

そんなイライラも、部下ノートをつけるようになると軽減できます。

というのは、部下の行動を記録していくと、部下の行動パターンがわかってくるからです。残業があると愚痴るのは口癖、電話の声が小さいのはいつものこととわかるようになれば、わざわざ反応することもなくなります。

それどころか、「またいつものやつか」と、ちょっと笑えたりすることもあります。

部下ノートを続けると、イライラする現象は確実に少なくなります。

忙しくても、部下の言動が気にならない

広告代理店G社に勤務するQさんも、部下の言動に敏感に反応していた1人でした。G社は通販専門の広告代理店で、天然素材を使った健康食品を扱っていて、年商100億円。

ディレクターであるQさんの部下は、広告制作を担当する20~30代のクリエイターたち。型にはめられるのが嫌いな個性的な人たちですから、マネジメントもたいへんです。

特に忙しさがピークになると、1ヵ月間はメンバーの感情の起伏が激しくなります。そうなると、Qさんのイライラもピークを迎えます。

ここで、業務改善のためにつけ始めていた部下ノートが有用であることに気づきました。部下ノートに、メンバーの行動を書き留めていたところ、メンバーがどういう原因で感情が揺れるのか、それぞれに特徴がわかってきたのです。そのとき、どういうことを言いだしたり、どういう行動をするかも個々にわかるようになりました。

メンバーの動きを事前に予測できると、どんなに激しく怒っていても、不満をもらしても、いちいち反応することはなくなります。それに、感情を読み取ることができるようになると、どんなに忙しくても適したタイミングで声をかけることができます。

Qさんは、部下ノートをつけることで、メンバーの言動にイライラすることは少なくなったといいます。それだけでなく、メンバーから本音で改善点や不満点を引き出すこともできるようになったといいます。
 

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望月禎彦(もちづき・よしひこ)
人事政策研究所代表。1960年生まれ。ユニ・チャーム株式会社にて営業を経て人事部で採用、研修の実務を経験。92年に独立。主に中堅企業の人事政策を支援。「できる社員」を着実に増やし、成果をつなげる手法は、多くの企業で指示され、支援先は、300社を超える。2010年には人事評価ASPシステム「コンピリーダー」を開発し、台湾、香港なども含め1000企業が導入している。

髙橋恭介(たかはし・きょうすけ)
株式会社あしたのチーム代表取締役会長。一般社団法人人事評価推進協議会代表理事。1974年、千葉県松戸市生まれ。興銀リース株式会社を経て、2002年にプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまで成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位に飛躍させた。同社での経験を生かし、2008年、株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任。
 

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