(本記事は、望月禎彦氏、髙橋恭介氏の著書『簡単なのに驚きの効果「部下ノート」がすべてを解決する』アスコム、2018年10月29日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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あなたと部下の人生を変える「部下ノート」の書き方

「部下ノート」でPDCAサイクルは簡単に回せる

では、いよいよ、部下ノートの書き方を説明していきます。

皆さんは、事業活動、生産活動を促進するためのPDCAサイクルという言葉を聞いたことがあるでしょうか?

簡単に説明すると、P(Plan)・計画を立てて→D(Do)・実行する→C(Check)・確認する→A(Action)・改善する。この流れで管理をするという手法で、今では多くのビジネスパーソンが実施しています。

部下ノートは、まさに次の図のように、PDCAの流れに沿って部下を育成するためのツールなのです。

部下ノートは日々の仕事のなかでの部下の気になった行動や言動をメモするのはもちろんですが、上司であるあなた自身が部下に対してとった行動や指導なども書き留めていくノートです。

そして、ノートの効果を確認するために、あなたの指導やアドバイスによって部下の行動がどう変わったのか、そしてどう成果に結びついたのかをチェックしていくためのツールでもあります。

PDCAサイクルでいうところのどういうことを部下に言ったのか、それがどうなったのか、というCとAの部分は、特に意識を向けずに、ただ、計画を立てて実行する、すなわちPとDを繰り返している人も少なくないのではないでしょうか。それでは、部下は育ちません。

うまく、PDCAが回っていない状態です。

大切なことは、仕事上で部下に起きている事実を正確にとらえること。

事実を細かく掴んでいくには、たまにしかやらない面談ではなく、瞬間の積み重ねが重要です。

そこで得られる情報から、部下の性格や特徴、仕事のやり方、仕事に対する考え方、上司に対する思いや上司の言葉の受け止め方、さらに仕事そのものの進め方の課題や問題点なども見えてきます。

「書き続けるのは、面倒くさい、そんなノートをつけるよりも、自分でやったほうが早い」

そんなふうに考えている人もいるでしょう。しかし、部下ノートは、部下が育つことで上司の負担を減らすツールでもあります。

あなたがどれだけ有能であったとしても、1人でできる質と量には限界があります。あなたが、会社から求められる仕事の量と質を保つには、部下の育成が欠かせません。

会社としては、部下を持っている責任者は、部下に任せられるところは任せて、事業計画や業務改善など、上司にしかできない責務を果たしてほしいと願っているはずです。

もし、あなたがプレイングマネージャーであるなら、部下に仕事の一部を委譲することで、自分の仕事がはかどるというプラスもあるでしょう。

経営の神様といわれている松下幸之助も、責任者がやるべきこととして、仕事を任すことが大切だと述べ、ただ任せるのではなく、随時報告を聞き、適切なときに、的確な指導、助言を与えなければならないと言っていたそうです。

部下ノートこそ、部下に仕事を任せ、適切な指導、助言を行うために役立つはずです。

具体的な部下ノートの流れは、

STEP1気になった部下の行動を書く。

STEP2部下に指導したことを書く。

STEP3部下の行動が変わったか、成果につながったか○△×でチェックする。目安は部下の行動は1週間後、成果につながったかどうかは3週間後。

STEP4今後の指導を考える。

といったものになります。

「部下ノート」の効果を上げる、書くときの6つの鉄則!

鉄則1 1、2行で十分。書きすぎないこと

部下ノートを続けられない人の原因の1つは、丁寧に書きすぎることです。なんでもそうですが、始めた瞬間はやる気があるので頑張ってしまいます。部下ノートの場合なら、ついつい長めに書いてしまう傾向があります。

しかし、部下ノートは手短にまとめるのが、継続のコツ。1人の部下に対して、1、2行で十分です。

「○○さんが、□□した」。これだけで構いません。

たとえば、「○○君、○時○分に出勤。顔色が悪い。どうしたのだろうと思っていたら、“おはようございます”と小声であいさつをしてきた。昨日、残業したのだろうか。気になる」と書いたとします。

これでも問題ありませんが、「○○君、朝のあいさつの声が小さい」でも十分です。

最初のやる気を継続できればいいのですが、人間なかなかそうはいきません。やる気はすぐにしぼんでしまいます。そのときに、「長めに書かなければ」という意識があると、部下ノートが重い存在になります。

書くことを義務づけて無理に続ければ、途中で挫折することになります。腹八分という言葉がありますが、部下ノートの内容も、「これでは少ないかな?」と思うくらいの文章量が最適です。

部下ノートは、継続してこそ効果を発揮するツールなのです。

鉄則2 部下全員のことを書かなくてもいい

部下ノートをつけることをすすめると、「部下が多くてできません」という声を聞くことがあります。結論から言うと、部下が何人いても部下ノートは始められるし、継続できます。

皆さんも部下の数はバラバラだと思います。1人しかいない人もいれば、10人、20人、もしかすると100人という方もいるかもしれません。

私には直属の部下が9人います。

さらに定期的に主催している勉強会に参加している方は130人です。

厳密にいうと部下ではありませんが、合計140人に対して部下ノートを続けています。

何人いても続けられるのは、部下ノートに全員のことを書くというルールはないからです。ノートに書くのは、気になった部下のことだけ。

仕事によっては1週間顔を合わせることがないという部下や、ほとんどコミュニケーションがなかったという部下もいるでしょう。その人が何をしたのかわからないのに、ノートに書くネタはないと思います。

つまり、1週間に一度も登場しない部下もいれば、何度も登場する部下もいるということです。部下ノートはそれでいいのです。

そういう意味では、部下ノートは人数無制限のツールといってもいいでしょう。

部下ノートの目的を明確にすることで、ノートに書き留めていく対象を絞り込むという方法はあります。

たとえば10人部下がいたとしても、新入社員だけに絞るとか、入社3~8年目までの中堅社員に絞るとか、直近1年間の営業成績が悪い3人にするとか、絞り込み方は自由です。

会社や部署などの方針や目的に合わせて絞り込むと、より細かく観察できるようになります。

ただし、数人に絞り込んだからといって、全員のことを毎日書く必要もなければ、詳しく書くこともありません。部下ノートに書くのは気になったこと。なければ、書かなくても構いません。

継続のコツは、自分に義務感を与えないこと。義務に感じると、自分で始めたことなのに、どうしてもやらされ感が出てきます。部下ノートが習慣になるまでは特に注意したいところです。

鉄則3 毎日書く必要なし

部下ノートは毎日書かなくても構いません。

日記ではないので、部下の気になることがなければ、その日は無記入でOK。

「毎日、最低でも何文字は書こう」などと、継続の妨げになるようなことは決めないようにしましょう。

「毎日書かなければいけない」となると、まさに義務。書くことが面倒くさくなって続けられなくなります。

1日を振り返って、「今日は書くことないな」と思ったら、部下ノートを閉じるようにしてください。

そもそも、書こうと思っても、本当に何も書けないことがあります。

たとえば、終日外部の研修やセミナーに参加したときは、部下とのやりとりが1日まったくない可能性もあります。そういう場合は、書かなくていいのです。

身近に部下がいたとしても、部下が気になる行動をしたり、素晴らしいと思えることをしなかったら、あえて書くことはありません。

書くことが何かないだろうかと無理に探すのも、部下ノートが続かない原因です。

それは、部下に指導したことを書くスペースも同じです。部下とのやりとりがなければ書く必要はありません。部下に対して何もアプローチをしなかったときは、書くネタはないはずです。

つまり、「書かないこと」も部下ノートを継続するコツなのです。

鉄則4 文章に凝らない

あなたは、もともと文章を書くのが好きですか?

好きな人は、部下ノートの書き込みに注意しましょう。文章を書くのが好きな人は、部下ノートとはいえ、文面にこだわります。納得いかなければ書き直したり、書き始めるまでに時間がかかったりする人もいます。

実際、部下ノートを研修で実践させてみると、部下の行動をまるで小説のように書く人がいます。

「○○さん。彼女がはじめて、ミーティングで自分の意見を語った。それほど目新しい内容だったわけではないが、控えめな彼女が意見したというだけで、私には驚きだった。昨日、研修での彼女の発案をほめたのがよかったのだろうか。もう少し、様子を見てみよう。次のミーティングが楽しみになってきた」

最初はこれでもいいと思います。ただ、これを毎回書くのはたいへんです。

「○○さんが自分の意見を言えたのは、もしかすると自分がほめたから」という内容が盛り込まれていれば、部下ノートとしては十分。

そもそも、部下ノートは誰かに見せるものではありません。自分が読めればいいのです。それに、短時間で書ける短文のほうが、書くことが負担になりません。長文にしようとすると、人によって業務に支障を来す場合も出てくるのではないでしょうか。

また、部下ノートに書く文章に、美しさや正しさは不要です。そういう意味では、パソコンを使ってアイコンをつけたり、文字色を変えたりするのも、ノートは楽しくなるかもしれませんが、時間の無駄。

部下ノートは、シンプルなのが一番なのです。

本書に添付してある「部下ノート」のフォーマットは、スペースを区切っています。スペースを設けたのは、頑張って書き込むことを避ける狙いもあります。

2行くらい書けば、スペースがいっぱいなるでしょう。

その程度の文章量が、継続するためには最適なのです。

鉄則5 自分が読めればいい

何度も話してきたように、部下ノートは誰かに見せるものではありません。

もちろん、部下に直接読ませることもありません。自分さえ読めれば十分なのが、部下ノートなのです。

つまり、部下ノートはとてもフリーな存在ということです。

誰でも自宅とビジネスの現場では身のこなし方が違うように、言葉にすることと心で思っていることが異なることもあります。

部下ノートには、ときに上司として部下に言わなくてもいいことを書くこともあるでしょう。

特に、ノートを書き始めた頃は、ただ思うままに部下のことを書くことに集中しているので、心の内側を表現していることが多くなるかもしれません。

そこから始まるのが部下ノート。

誰も見ないから、最初は部下の悪口を書き連ねてもいいのです。

もし、このノートを誰かに見せなければならないものだとしたら、書き始めるまでに時間がかかることもあるはずです。また殴り書きをするわけにもいかないので、丁寧な文章をつくろうとして、書き終わるまでに時間がかかります。

そうなると気持ちを整える必要も出てくるので、部下ノートを書き続けることはかなり困難な作業になるはずです。

鉄則6 会議や行事だけの記入はNG

部下ノートには、部下のことや自分と部下のことならなんでも書いていいのですが、効果につながらない書き方があります。効果がなければ、当然、部下ノートを継続することはできません。

ダメな書き方の代表的な例は、スケジュール帳のような書き方です。

「○月○日、部下との面談」
「○月○日、販売促進会議」
「○月○日、棚卸し」

これは、その日の行事を列記しただけ。これでは部下がどうしたのか、自分が何をしたのか、それに部下がどう反応したのかがまったくわかりません。

何を書いてもいいのが部下ノートですが、社内の行事やイベントだけを記入するのはNGです。

この内容では、部下が育つきっかけにも、自分が変わるきっかけにもなりません。

スケジュール的なものを書き込むのは、何も考える必要がないのでとても書きやすく、とりあえず部下ノートのスペースを埋めることはできます。

これだと、自分がやっていることを自己アピールしてるだけで、部下ノートの目的である部下と自分の成長にはまったく効果なし。自己満足そのものです。

それより、ノートに書いたような行事やイベントがあったとしたら、それこそ書くネタには困らないはずです。

たとえば、「○月○日、販売促進会議」であれば、その会議で部下がどんな意見を出したのか、その意見を聞いて自分はどう思ったのか、そこで自分は何を決断したのかなど、書くことはいくらでもあるはずです。部下ノートに書くのは、そこです。
 

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望月禎彦(もちづき・よしひこ)
人事政策研究所代表。1960年生まれ。ユニ・チャーム株式会社にて営業を経て人事部で採用、研修の実務を経験。92年に独立。主に中堅企業の人事政策を支援。「できる社員」を着実に増やし、成果をつなげる手法は、多くの企業で指示され、支援先は、300社を超える。2010年には人事評価ASPシステム「コンピリーダー」を開発し、台湾、香港なども含め1000企業が導入している。

髙橋恭介(たかはし・きょうすけ)
株式会社あしたのチーム代表取締役会長。一般社団法人人事評価推進協議会代表理事。1974年、千葉県松戸市生まれ。興銀リース株式会社を経て、2002年にプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまで成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位に飛躍させた。同社での経験を生かし、2008年、株式会社あしたのチームを設立、代表取締役社長に就任。
 

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