(本記事は、植西 聰氏の著書『怒らないコツ 「ゆるせない」が消える95のことば』=自由国民社、2018年10月17日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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自分よりも立場が低い者の言葉に誠実に耳を傾ける

部下の話から学ぶことができるリーダーになる

戦国時代の武将で、江戸時代に入ってからは肥前佐賀藩(現在の佐賀県)の初代藩主になった鍋島直茂(16~17世紀)は、「たとえ身分が低い者であろうとも、その者の話すことによく耳を傾けることが大切である。というのも、身分が低い者であろうとも、正しく賢明なことを言う人は多いからである。身分が低い者は、話し方は下手かもしれないが、よく聞けば、なるほどと頷けることも多いからである。

したがって、身分が低いからと言って、その者が話していることをバカにしたり、笑ったりしてはいけない」(意訳)と述べました。

これは、あらゆる組織のリーダーに参考になると思います。自分よりも立場が下の部下だからという理由だけで、部下の話をよく聞かないリーダーがいます。部下の話をよく聞かないまま、「おまえの意見は、くだらない」と、バカにしているような言い方をして、部下を笑うリーダーもいます。リーダーから、そんな言い方をされ、態度を取られたら、部下も怒りを感じ反抗的な態度を見せるでしょう。部下の反抗的な態度を見れば、リーダーもカッときて一層激しい言葉で部下を責めます。

そうなれば、リーダーと部下の信頼関係は崩れてしまいます。部下としっかりとした信頼関係を築いていくためにも、「部下の話をよく聞く」という意識を持つことが大切なのです。そして、部下の話をよく聞いてみれば、「なるほど、いいことを言っている」と気づくこともたくさんあるものなのです。

「教えてください」という気持ちで、人の話を聞く

聞き上手の人のほうが成功しやすい

聞き上手になるための一つのコツとして、相手がどのような立場にある人であっても、「その人から教えてもらう」という意識を持つことが大切です。

「私のほうが、あの人よりも物事をよく知っている。だから、私があの人に教えてあげるんだ」といった傲慢な意識の持ち主は、決して聞き上手にはなれないでしょう。「教えてください」という謙虚な気持ちを持って人に接してこそ、聞き上手になれます。

松下電器産業(現在のパナソニック)の創業者である松下幸之助は、「私は人の話を聞くのが上手です。私は学問のある他人が全部私よりよく見え、どんな話でも素直に耳を傾け、自分自身に吸収しようとつとめました。よく他人の意見を聞く、これは経営者の第一条件です」と述べました。

まさに聞き上手であったからこそ、松下幸之助は、対人関係で争い事を起こすことなく、多くの人たちから慕われ、たくさんの協力者を得ることができたのです。そして、それが経営者としての成功につながっていきました。

また、松下幸之助は、人の話を聞く時は、悪い姿勢を取ったり、腕を組んだりすることがなかったと言います。一時間でも二時間でも、背筋をピンと伸ばした良い姿勢で、「なるほど、なるほど」と頷きながら、誠実に人の話を聞いていたといいます。

このような態度も、松下幸之助の「教えてください」という謙虚な気持ちの表れだったと思います。謙虚な気持ちで人の話を聞くことも「怒らないコツ」の一つになります。

「無学」ではなく、「有学」という意識を持って生きる

「私は愚かだから学ぶことがたくさんある」という意識を持つ

仏教に「無学」という言葉があります。これが一般的にはよく使われる言葉ですが、一般的に無学と言えば「教養がない」「愚かだ」といった意味で使われると思います。

しかし、仏教で言う「無学」とは、「すべてのことを学び尽くし、もうこれ以上学ぶことがない」という意味なのです。つまり「愚かだ」という意味とは正反対なのです。仏教で言う「無学」とは、「たくさんの教養があって、最高に賢い」ということを指しているのです。

一方で、仏教には「有学」という言葉もあります。これは、「学問がある」という意味ではありません。この「有学」こそ、「愚かな人間として、学ぶべきことがたくさんある」という意味になるのです。

人間は、この「私は『有学』である」、つまり、「私はまだまだ愚かな人間だから、たくさんのことを学んでいかなければならない」という意識を持って、謙虚な気持ちで生きていくことが正しいのです。それが仏教の教えです。

また、そのような「私は『有学』である」という意識を持っていれば、人にも謙虚な気持ちで対応できるようになります。そうなれば、「教えてください」という態度で、人の話をよく聞くことができるようになります。そして、人間関係で、相手を怒らせたり、自分が怒ったりということもなくなるのです。

口ゲンカを売られたとしても、「相手にしない」のがいい

「勝ち負け」という観念を捨てる

仏教の創始者であるブッダ(紀元前5~4世紀頃)には、次のような話があります。

ある日、ブッダが、森の中で瞑想をしていました。その時、ある男がブッダのもとへやって来ました。その男は以前から、ブッダと口論をして言い負かしてやりたいと考えていました。そこで、瞑想しているブッダに向かって、悪口をさんざん言いました。

しかし、ブッダは、一切反論することなく瞑想を続けていました。そして、ブッダは瞑想を終えました。その男は、瞑想を終えたブッダに向かって、「あなたは私が悪口を言っても、言い返してこなかった。それは、あなたが私に負け、私があなたに勝った証しだ」と、誇らし気に語りかけました。

するとブッダは、それに対して、「口論をして勝ったとしても、嫌な思いが増すだけだろう。口論をして負ける者は、悔しさで夜も眠れなくなる。私は、勝ち負けという観念を捨て去っている。だから心安らかでいられる」と言いました。

このブッダの言葉にある、「勝ち負けという観念を捨て去る」とは、言い換えれば、無暗に口ゲンカを売ってくる人間など「相手にしない」ということです。そこで怒って言い返せば、たとえ口論に勝ったとしても、また口論に負けたとしても、いずれにしても自分が嫌な思いをするだけなのです。そうならば、「相手にしない」というのがもっとも賢明な対処の仕方なのです。
 

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植西 聰(うえにし・あきら)
東京都出身。著述家。学習院大学卒業後、資生堂に勤務。独立後、人生論の研究に従事。独自の『成心学』理論を確立し、人々を明るく元気づける著述を開始。
 

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