「FIRE」とは、「Financial Independence, Retire Early」の略で、経済的自立による早期リタイアの実現を意味する言葉だ。FIREに憧れる人は多いが、実際にそれを達成した人がどのように暮らしているかを知る人は少ない。今回は2020年秋にFIREを実現した投資家兼ブロガーの桶井道(おけいどん)氏に、その後の生活について聞いた。
労働、節約、貯蓄、投資の歯車を回し続けることによって、会社員生活25年目の2020年秋にFIRE達成。現在は、投資家兼ブロガーとして単行本の出版、各種メディアでの執筆活動も行う。
投資歴は約23年で、投資先は日米を主として、世界17カ国・地域の高配当株と増配株を中心に、一部米国成長株にも投資する「地球儀投資」。2021年3月には「今日からFIRE! おけいどん式 40代でも遅くない 退職準備&資産形成術」を出版。Twitterやブログでは、投資や節約、FIREなどに関する情報発信を行う。
Twitter: @okeydon
ブログ:おけいどんの適温生活と投資日記
イラスト:いぢちひろゆき
1.桶井氏がFIREを達成するまで
――まずは、FIRE達成までに行っていた投資について簡単に教えてください。
25歳の時に日本株投資デビュー。
その後は大型株、中小型株、東証一部上場株、新興市場株、成長株、高配当株と一通りの投資をしました。
幸い投資の歯車が止まって退場することはなく、39歳から徐々に大型株の高配当株にシフトしました。
配当金をFIRE後の収入源にと考えたからです。
42歳で外国株の投資信託をスタート。
その成績が良かったので、44歳で外国個別株投資をスタートしました。
現在(48歳)は、日米を主とした17ヵ国と地域の高配当株および増配株への長期投資と配当金の再投資です。
一部、成長株にも投資しています。
現役時代は、収入の半分以上を貯金と投資に充てていました。
現在は、貯金は現状維持で、新たな資金は投資に回しています。
2,FIREで得られるのは自由だけではない
――FIREを達成された後の、一日のスケジュールを教えてください。特に、仕事がなくなったことで空いた時間をどのように使っていますか?
決まったスケジュールは特にありません。
目覚まし時計とは無縁で、好きな時に起きます。
満員電車に乗る通勤も定時出勤もなく、上司もおらず、会社のルールもありません。
縛られるものが何もないのです。
時間を守るべきことは、調理当番の日に家族に食事を出すことだけです。
あとルーティンといえば、毎日朝食の後にロイヤルミルクティーやカフェラテを作ってゆっくり飲み、幸せを感じることくらいです。
サラリーマンの朝は忙しくて、このようなゆとりはまったくありませんでした。
その他は、スケジュールにもルーティンにも縛られずに生きています。
好きな仕事を、好きな人と、好きな時に、好きな量だけ、好きな場所でしています。投資の勉強も継続しています。
投資および「リタイア以上フリーランス未満」の仕事を通じて、一国民として納税の義務も果たしています。
また、すべてではないものの家事を担い、難病が見つかった父の介助もしています。
今後は親子の立場を逆転させて、親孝行をしていこうと思います。
――2018年頃には、休職してお母様の介護をなさっていたと伺いました。
両親の介護や介助は、現実的に労働との両立が難しいです。
かといって、会社を休んだ場合のセーフティネットは、介護休業給付金が3ヵ月間支給(給与の約3分の2)されるだけです。
人生100年時代を迎えて、家族の介護・介助は「まさか」ではなくなるでしょう。
そのためにも、FIREのうち「FI(編集部注:Financial Independence、経済的自立)」は達成しておいたほうがよいでしょう。
さらにいえば、自分自身も生涯健康とは限りません。
実際に私は内臓疾患が持病となり、40代になって悪化しましたが、これもFIREを決意した理由の一つです。
3,低支出×投資が趣味の、安定した暮らし
――介助から離れたお一人の時間は、どのように過ごしていますか?
一人のときによく行く場所は、カフェです。
複数のカフェをその日の気分で使い分けて、執筆の拠点にしています。
また、何もせずのんびりすることもあります。
この先コロナ禍が終われば、以前のように毎週証券会社や銀行が主催する投資セミナーに通います。
他にはザ・リッツ・カールトンやセントレジスホテルなど、ラグジュアリーホテルでランチやお茶がしたいです。
ラーメンの食べ歩きもします。
家族としての、一国民としての役割を果たした上で、あとは好きなことをすればよいと思っています。
自由な時間は増えましたが、空いた時間という感じはあまりなく、暇を持て余すことなく常に何かしています。
人から命令されることがなく、人から名前を呼び捨てにされることもなく、何かしら従わされることも皆無で、多くの時間を自分の好きに使えるので、毎日が充実していますよ。
――日々の暮らしの中で、趣味にはどの程度のコストをかけていますか。また、FIRE前後でその内訳に変化はありましたか?
物欲がないため、もともと低支出体質です。
唯一の趣味である、ザ・リッツ・カールトンやセントレジスホテルなどのラグジュアリーホテルでのランチやティータイムがコロナ禍でできなくなったので、より支出が減っています。
よって、現在は余暇や趣味のコストはほぼ0円です。
余暇や趣味に入るのかどうかは分かりませんが、カフェで支出があるくらいです。
これは一般的には趣味とはいえないでしょうが、私の場合は投資も趣味のうちです。
株を買うことでコレクションが増えたような気持ちになり、物欲も満たせています。
これが、私の最大の強みだと思います。
コロナ禍が終われば、ラグジュアリーホテルでのランチやお茶、ラーメンの食べ歩きがしたいです。
これらはFIRE前にも行っていたことで、出費は月3万円程度でした。
現在の桶井氏の収入と支出
収入 | 支出 |
---|---|
配当金 10万円 (60歳で20万円まで増やす計画です) |
食費 3万円 |
ブログ 3万円 | 社会保険料 2.5万円 |
執筆業 10万円 (印税、原稿料、取材謝礼) |
通信費 0.5万円 |
その他 12万円 (非公表。親からの生活費援助などではなく、 外から入るお金です) |
医療費 0.5万円 |
交通費 0.5万円 | |
合計 35万円 | 合計 7万円 ※コロナ禍が明けると外出が増えるため、 支出は増えます。 |
4,やりがいが見つかれば、FIRE後の生活に不安はない
――FIRE達成の前後で、精神的な変化はありましたか? 特に、定職がなくなったことによる開放感や不安感などについてお聞かせください。
不安に感じる気持ちは、退職が近付くにつれて増大しましたが、退職が決まった日がピークでした。
その後は、だんだんと薄れていきました。
退職当日は多少の寂しさはありつつも不安は小さくなっていて、同時に「解放された!」とホッとしました。
FIRE後はそれらの不安はなくなり、新たな生活にもすぐに慣れました。
単行本の原稿執筆という打ち込むものがあり、余計なことを考える時間がなかったのがよかったと思います。
――FIRE後は仕事がなくなって暇で仕方がない、という状態ではなかったのですね。
暇だと感じることは、ほぼありませんでした。
FIRE後の数ヵ月間は単行本の企画会議や情報収集、資料作成、執筆、校正などに多くの時間を使いました。
他にも、投資勉強や父の事業手伝い(この9月末をもって終了)、家事など、することはいくらでもありました。
平日の昼間に父と将棋を指すのも楽しいものです。
たまにある暇な時間は、ちょうど楽しめる程度の「暇感」でした。
――読者の中には、FIRE達成後に仕事がなくなって所属意識や承認欲求が満たされなくなることについて、不安に思う方も多いかと思います。
FIRE達成の数ヵ月後には、所属意識に関する不安は完全になくなっていました。
ブログやTwitterによって、新たなコミュニティができていたのが大きいと思います。
コミュニティは投資関連に限らず、趣味でも何でもよいと思います。
退職してみて、企業だけが所属先ではないことが分かりました。
承認欲求についても、FIREしたらしたで新たに評価してくださる方が出てくるものです。
私の場合は、単行本の出版やメディア取材を通じて出会った、編集者の方々です。
執筆した原稿を「よくできてる」「仕事が早いですね」と褒められると、嬉しいものです。
Twitterでも、フォロワーの皆さまから「先日のブログ記事を読んで節税できました」「新しい(株の)銘柄に出会えました」などの声があり、私のアウトプットを評価していただけることを嬉しく思っています。
――FIRE達成後の人生に、多くのやりがいを感じていらっしゃるように見えます。
FIRE達成後は、新たに仕事以外のやりがいを見つけることが大切だと思います。
私の場合は単行本を出版しました。
そこから、FIRE前から運営していたブログやTwitterに広がり、多くの投資家様とのコミュニケーションが生まれました。
また、多くのメディア取材も受けました。
アウトプットの場をたくさんいただき、それがやりがいになっています。
父の事業の手伝いには専門知識や経験が必要なのですが、サラリーマン時代の経験を活かして一人でやり切った案件もあり、そこにもやりがいを感じました。
9月末をもって事業を縮小しましたので手伝いはなくなりましたが、最後に父の会社を手伝えてよかったです。
家事では、これまでまったくできなかった料理を始めました。
家族の「おいしい」の一言が、こんなに嬉しいとは思いませんでした!
5,FIRE達成に必要な3つのこと
――最後に、読者がFIREを達成するためのアドバイスをお聞かせください。
FIREを達成するための必須事項は、以下の3つです。
まずは資産額とキャッシュフローを意識して、お金の問題を解決すること。
資産額だけでなく、資産を取り崩す必要がないように「収入>支出」の状態を作るべきです。
次に、家族から同意を得ること。
60歳を前に退職するという生き方は少数派なので、自分一人で決めるのはよくないと思います。
勝手に会社を辞めると、あとで家庭内がぎくしゃくします。
そして、サラリーマンとして仕事への納得感、達成感を持つこと。
会社を辞めてから「自分はサラリーマンとして通用しなかった」といった気持ちにならないためにも、サラリーマン時代の仕事への納得感や達成感は大切だと思います。
私の場合は、20代で数千人の従業員の中で営業成績1位を取りました。
40代では、S&P500に入る米国企業2社との単独契約を果たしました。
さらに、3年間誰も達成できなかった案件の契約を、わずか半年間で締結しました。
これらがあるので、私は自分のサラリーマン生活に納得しています。
6,FIREという贅沢のために
FIREを達成した今感じることは、解放感がMAXだということです。
何も従わされることがないのですから。
逆にいえば、サラリーマン生活とは何かに従わされることの連続でした。
就業規則や満員電車、定時出勤、売上目標、上司からの指示、急な残業、取引先との交渉、顧客からのクレーム……またそこに戻るのは、絶対に無理です。
資産形成においては労働、節約、貯蓄、投資の歯車を回し続けることが大切です。
中でも節約はメンタル的に難しいのですが、特に39歳でFIREを意識してからは「節約のための節約ではなく、FIREという人生最高の贅沢をするために節約」と思うようにして、ブレない姿勢を貫きました。
若いころから、お金を使って遊ぶ人を横目で見ながら、空になったマイボトルを会社のウォータークーラーで補充する節約ぶりに「そこまでするか!?」と笑われることもありましたが、節約を貫いた自分を褒めたいです。
このようにFIREへの道には華やかさなく、とても地味ですが、それを苦にしなかったのは資産形成への強い信念があったからだと思います。
文・MONEY TIMES編集部
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