また、刻みの直径は約7ミリメートル(夜空で約1度に相当)、スケールは1センチでおよそ1.4〜1.5度と見積もられていて、制作者がある程度正確性を意図していたことがうかがえます。

さらに天文シミュレーションソフトを使い、紀元前1800年から紀元前400年ごろのこの地域で星がどう見えていたかを再現したところ、刻みされている星々は実際に夜空に存在していて見えていた可能性が高いことも確認されました。

こうした調査の積み重ねによって、従来“象徴や神話的な表現”に分類されてきた先史時代の刻印石が、実は星の位置をできるだけ忠実に記録しようとした試みであった可能性が、非常に説得力をもって提示されたと言えるのです。

これは本当に星図なのか、再検証へ

この石盤が「世界最古級候補の星図」とされる意義は非常に大きいものの、慎重に考えるべき点も多くあります。

まず、制作年代の範囲が広いことが大きな課題です。

ルピンピッコロ要塞自体の使用時期は紀元前1800年頃から紀元前400年頃まで幅があり、石盤もこの間のいずれかの時期のものと推定されています。

さらに、同じような形の石が後の時代に使われた墓石の蓋などに似ている点もあり、「絶対に最も古いもの」かどうかはまだ判断できません。

発掘の層の広がりや出土記録が詳細でないこと、後代に再利用された可能性が残っていることも無視できません。

保存状態の問題も重要です。

一部の刻みは石の風化によって浅くなったり消えかけたりしており、本来の形や数が現在の刻み跡から完全には再構築できない部分があります。

これにより、一部の刻みが実は別の星をあらわしていたが削られた可能性や、構図が元々今日残っているよりももっと精緻だった可能性もあります。

特に注目されるのは、既知のどの星にも満足に一致しない一つの刻み跡の存在です。

研究ではこの刻み跡を「失敗超新星由来の見えなくなった残骸」という仮説で扱っていますが、現段階ではただの仮説に留まっています。