これら29個の刻み跡のうち、28点は夜空に見える明るい星々とよく対応しています。具体的には、さそり座の尾、オリオン座の三ツ星やベテルギウス、リゲルなど、プレアデス星団(すばる)、さらに裏面の5点はカシオペヤ座に近い形を示しています。
この石盤を現代の天体シミュレーションソフト(Stellarium等)で再現すると、紀元前1800年~紀元前400年(約2400年前〜3800年前)ごろのこの地域の夜空に、これらの星々が実際に見えていたことが裏付けられています。
たとえば、Theta Scorpii(サルガス)は現在この緯度では地平線下になることが多いですが、当時は歳差の影響で位置が高く、視認可能だった可能性があります。
その一方で、29個目の刻み跡は既知の星のどれにも満足に対応しません。既知星(μ Ori、ε Sgrなど)の候補も検討されましたが、位置が一致せず、失敗超新星由来の見えなくなった残骸という仮説が提示されています。
コラム:「失敗超新星」とは何か?
星はその一生の最後に大爆発を起こすことがあります。これを「超新星爆発」と呼び、とても明るく輝きます。しかし、宇宙には「爆発に失敗した超新星」もあります。これが「失敗超新星」です。通常、大きな星は寿命が尽きると、自分自身の重力に耐えきれなくなり、中心部が急激につぶれてしまいます。この瞬間、星の外側は猛烈な勢いで宇宙空間に吹き飛ばされ、大きな爆発となるのです。ところが、星によっては、中心部分がつぶれてブラックホールができるものの、外側への爆発がほとんど起きない場合があります。これが失敗超新星です。簡単に言えば、星が静かに姿を消し、代わりにブラックホールだけが残る現象です。この「失敗超新星」は非常に観測が難しいため、宇宙で実際にどれくらい起きているのか、はっきりとは分かっていません。今回、石板に残された謎の刻印が、こうした「消え去った星」を示している可能性もあり、注目されているのです。