すると驚くことに、心臓の血管(冠動脈)のプラークのうち約42.1%、手術で取り出したプラークのうち約42.9%という非常に多くの割合で、「口腔レンサ球菌群(こうくうれんさきゅうきんぐん)」と呼ばれる細菌のDNAが見つかりました。
口腔レンサ球菌群は私たちの口の中に常に住んでいるごくありふれた細菌ですが、虫歯や歯周病を引き起こす原因の一部でもあります。
さらに研究者たちは「免疫染色」という方法を使って、この細菌がどこに潜んでいるのかを調べました。
免疫染色とは、細菌など特定の物質に色をつけて顕微鏡で見る方法です。
その結果、この細菌たちはプラークの中心部分で「バイオフィルム」という特殊なゼリー状の膜を作り、静かに隠れていることがわかったのです。
一方で、興味深いことに、プラークが破裂して心筋梗塞を起こした部分を詳しく観察すると、そこにはバイオフィルムから漏れ出したと考えられる細菌が存在しました。
またこの漏れ出した細菌を、私たちの免疫システムが「パターン認識受容体」というセンサーを使って見つけ出し、それに対して「獲得免疫」(過去の感染を記憶してより強力に反応する防御システム)が働き始め炎症も起き始めていることがわかりました。
これは、体が細菌の侵入に対して全力で抵抗しようとしている証拠でもあります。
ここから考えられる仮説としては、プラーク内で引きこもっていた細菌が出てきたことで、免疫との戦いが始まったというものです。
その結果として起きた炎症が、プラーク表面の繊維性被膜(フィブラスキャップ=“ふた”)を弱め、破綻(やぶれ)と血栓(血のかたまり)形成につながり得ることが示唆されます。
そして免疫に伴う炎症反応ががプラーク表面の繊維性被膜(フィブラスキャップ)を壊し、結果的にプラークの破裂と血栓形成を招いたと考えられます。
実際、本研究ではこの細菌の免疫染色の強さ(免疫陽性スコア)が動脈硬化の重症度と強く関連し、冠動脈疾患/心筋梗塞による死亡との統計的関連も報告されました。