これは会社組織などで考えても納得が行くでしょう。会社の根幹に関わる巨大なチームがしょっちゅう入れ替え、変更をされては業務が上手く回りませんが、小規模なチームなら比較的短期間で入れ替えや、方針の変更が行われても問題はないはずです。

ところが、ヒトの脳にはそのルールを破る特別な細胞が存在していました。

それが大脳皮質の第2/3層にある「L2/3 ITニューロン」と呼ばれる神経細胞です。この細胞は脳の領域どうしをつなぎ、言語や複雑な思考、社会性に関わる重要な役割を果たし、脳内で数の多い細胞です。

驚くことに、この進化に対しては慎重であるべき広範な細胞が、ヒトの進化の過程で例外的に速い変化を示していたのです。これは会社で重要な大規模チームがしょっちゅう入れ替えや変更されているような現象でした。

進化の代償として生まれたASDのリスク

「L2/3 ITニューロン」という神経細胞は、いわば「情報の中継点」として、私たちが言葉を理解したり、相手の気持ちを推し量ったりするときに大きな役割を果たしています。

研究チームは、この細胞が急激に進化したことで、人間は高度な思考や複雑な社会性を獲得できた可能性があると指摘しています。

しかし同時に、その変化は「神経回路のバランスを取りにくくする」側面も持っていた可能性があるのです。

脳の主要なネットワークの動作が急速に進化し繊細な動作をするようになった結果、人類の認知機能は他の動物と比べて大幅に向上しましたが、それによって一部の人は情報処理がうまくかみ合わず、社会的なやりとりの難しさや行動の反復などASDの特徴が現れやすい素地を作り出したと考えられるのです。

さらに研究者たちは、ゴリラを比較対象に加えて「ヒトの進化の枝で本当にこの変化が起きたのか」を検証しました。

結果として、L2/3 ITニューロンの遺伝子発現の変化はヒトに特有であることが示されました