また、動物行動学の観点からも、クマを含む大型哺乳類は「相手の急所=顔や頭」を本能的に狙う傾向があります。顔には視覚や嗅覚、呼吸器といった生命維持に欠かせない器官が集中しているため、ここを攻撃することで短時間で相手の抵抗力を奪えるということをクマも理解しており、意図的に狙ってきます。

実際、今回紹介した論文でも、すべての症例で顔面の損傷が確認され、10例で顔面骨折、4例で眼球破裂による失明頭蓋骨が露出するほどの頭皮剝奪鼻や顎が丸ごと失われるなどの重傷が記録されています。さらに、顔を守ろうとする「防御行動」で手や腕を負傷する例も多く、四肢や体幹にも裂傷や骨折が併発しています。

このように、本州のツキノワグマでも顔面や頭部を狙う重篤な被害が日常的に起きています。

そして恐ろしいのは、被害者がクマと出会って不適切な行動を取ったからではなく、ほとんどは対処する間も無く襲われているケースが多いという点です。

そのため、不幸な被害をなくすためには、人とクマが生活圏で接触することがないように調整するしかないでしょう。

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元論文

クマによる顔面外傷 13 症例の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/28/2/28_183/_article/-char/ja/
当院におけるクマ外傷9例の検討
https://doi.org/10.11310/jsswc.12.98

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部