こうした特性を踏まえると、DNAは人類がデジタルデータを未来に残すための「究極の媒体」になり得るかもしれません。
ただし、DNAを「ハードディスクやUSBメモリー」のような気軽なデータ保存に使うためには、解決すべき課題もありました。
特に大きな問題となったのが、目的のデータを必要なときに素早く探し出して取り出すことが難しいという点です。
通常のハードディスクでは、保存されたファイルに住所のような情報が与えられています。
これにより、必要なデータがどこにあるか簡単に探せます。
しかし従来のDNAデータ保存の研究では、DNAの細かな断片を「粒子に混ぜたり、特殊なチップに固定したり」する方法が主流でした。
ところがこの方法では、保存されたDNAの断片の中から自分が必要なファイルだけを選び出すのに非常に多くの手間がかかってしまいます。
これは、まるで住所や番号のついていない何万冊もの本から、特定の1冊を探し出すような大変な作業でした。
そこで、中国の南方科技大学の蒋興宇(Xingyu Jiang)教授が率いる研究チームは、まったく新しい視点でこの難題に挑むことにしました。
そのヒントとなったのが、今の中高生には少し馴染みが薄いかもしれない「カセットテープ」でした。
カセットテープは1980年代に広く使われていたメディアで、音楽をテープに録音し、「巻き戻し」や「早送り」で聞きたい曲までテープを動かすことで曲を探していました。
研究チームは、この「テープを巻いて好きなところで止める」という仕組みを、DNAを使ったデータ保存に応用しようと考えたのです。
つまり、DNAという目に見えないほど小さな情報を、物理的なテープの形にして、そのテープ上を細かく区画化し、住所のような目印をつけて管理することで、目的の情報をすぐに探し出せるようにするアイデアでした。
この「DNAを使ったカセットテープ」というユニークな発想が成功すれば、DNAデータを誰でも簡単に、素早く扱えるようになるかもしれない――。