それは、地球上の最初の生命は、約40億年前の地球の海にあった「原始のスープ」と呼ばれる海水から生まれた、というものです。

「原始のスープ」とは、生命の材料になる色々な種類の有機物が混ざり合った、いわば「命の素となる化学物質のスープ」です。

実際、1950年代に行われた有名な実験では、地球が誕生したころの大気の状況を実験室で再現し、そこに電気を放電することで、アミノ酸という物質を作り出すことに成功しました。

アミノ酸は、タンパク質という生命活動に欠かせない分子を構成する重要な材料です。

こうした実験から、科学者たちは生命の材料そのものは比較的簡単に作られるのだと考えるようになりました。

しかし、材料があるだけで生命が生まれるわけではありません。

例えば、プラモデルの部品を全部箱から出して並べただけでは、自然に完成品ができあがらないのと同じです。

生命も、それぞれの材料が偶然うまく組み合わさり、細胞という複雑で高度な「秩序あるシステム」になる仕組みが必要なのです。

ですが、この仕組みが具体的にどのようにして自然にできたのかということは、今でもまだ謎のままなのです。

このため、科学者の間で重要なテーマとなっているのが、「自然発生」という考え方です。

自然発生(abiogenesis:アビオジェネシス)とは、「生命がもともと生命でない物質から自然に誕生する」という現象を指します。

現在のところ、生命は必ず他の生命から生まれることが確認されています。

例えば、人間も動物も、微生物さえも、すべて親となる生命から生まれています。

ですから、生物学者や化学者がどれほど努力しても、試験管の中で完全な生命をゼロから生み出すことには、まだ成功していません。

なぜ自然発生は難しいのでしょうか?

それは、自然界では放っておけば「無秩序」が増えてしまう傾向があるからです。

この性質を「エントロピーの増大」と呼びます。