したがって、今後の政策はインフレ圧力に注意を払いながら、本当に困っている層に対して再分配を強化するという二重の要請を同時に満たさなければならない。
日本経済はようやくデフレを脱却しつつあるが、その先に待つのは財政・金融政策が互いに衝突するリスクを抱えた厳しい現実である。「物価水準の財政理論」(Fiscal Theory of the Price Level)という理論が存在するが、現在のインフレや円安圧力は、病気になった患者が発熱でウィルスを退治しようとするメカニズムと似ており、財政が自律的にその収支を改善しようとする兆候にも見える。
インフレは一時的との意見もあるが、上記の要因のほか、国際秩序の変容で経済のグローバル化が逆流しつつあることや、急速な人口減少で日本は既に本格的な人手不足経済に突入していること等もあり、そうとは限らない。
インフレは税収増や名目賃金の上昇などに寄与することも事実であり、インフレ率が適切な水準に収まるよう、総需要に対する財政刺激に留意しながら、的確な再分配を行い、持続的な成長や、持続可能な財政構造に結びつけることができるか否かは、まさに今後数年の政策対応にかかっている。