この足を動かして泳ぎながら海中を漂い、小さな餌を食べて成長します。

ノープリウス幼生はある程度大きくなると脱皮(古くなった外骨格を脱ぎ捨てること)を何回か繰り返して成長します。

そして十分に成長すると、次の段階である「キプリス幼生(y-キプリス)」に姿を変えます。

キプリス幼生は前の段階とはまったく異なる姿をしています。

一枚の貝殻のような硬い背甲(カラパス)が体の一部を覆い、頭部には小さな複眼があり、体の前のほうから伸びる一対の触角は先端がカギのように曲がっており、このフック状の触角を使って海底の岩や他の生物の表面にしがみつき、自分が生活するのに適した場所を探すと考えられています。

実は、このキプリス幼生という形態は、Y幼生だけが持つ特殊なものではありません。

フジツボの幼生も同じようにキプリス幼生という姿を持っているのです。

フジツボのキプリス幼生の場合、触角から接着剤のような物質を分泌して岩や船底などの表面に貼り付き、一生をその場所に固定された状態で過ごします。

そのためキプリス幼生は、「将来自分が暮らすための家」を見つける大切な時期であると言えます。

ところがY幼生の場合は、フジツボのように岩や船底に固定されるわけではないようです。

研究者たちは長年、「Y幼生のキプリスはどこに定着するのだろう?」という謎に挑んできました。

その大きな手がかりとなったのが、過去に行われた「ホルモンによる変態の誘導実験」でした。

過去の実験で、Y幼生(キプリス幼生)に「甲殻類の脱皮ホルモン」を与えたところ、非常に奇妙な変化が観察されました。

するとキプリス幼生はそれまでの硬い外骨格に包まれた甲殻類らしい姿を脱ぎ捨てて、まるで小さなナメクジや芋虫のような柔らかく単純な体へと変態(劇的に姿が変わること)したのです。

研究者たちは、この全く新しい段階を「ypsigon(イプシゴン)」と名付けました。