ところが、デング熱や日本脳炎のウイルスは、人から人へ直接感染するのではなく、「蚊」を介して初めて人に感染します。

つまり、ウイルスが感染した人の血を蚊が吸い、その蚊が別の人を刺すことによってウイルスが移っていくのです。

人間同士で直接感染できれば手っ取り早いように思えるのに、なぜウイルスはわざわざ蚊という面倒な存在を間に挟む必要があるのでしょうか。

このような一見遠回りな方法をウイルスが使う理由については、これまでよくわかっていませんでした。

そこで研究チームは、この不思議な感染方法の理由を探るために、蚊が血を吸うときに人の体へ注入する「唾液(だえき)」に着目しました。

蚊が血を吸うとき、まず皮膚に小さな傷をつけますが、このとき人の体では血を固めて傷をふさごうとする働きが起こります。

しかし、これでは蚊にとって都合が悪いので、蚊の唾液には血が固まらないようにする成分や、刺されたときの痛みやかゆみを抑える成分が含まれており、血が吸いやすくなる環境を整えているのです。

実は最近になって、この蚊の唾液が「単に蚊が血を吸いやすくする」だけではなく、同時に「ウイルスの感染を助けているかもしれない」という新しい研究結果が報告されるようになりました。

言い換えれば、ウイルスが蚊の唾液を巧みに利用して人の体に入り込みやすくしているのではないかと疑われるようになったのです。

これが事実ならば、蚊はウイルスにとって単なる「運び屋」ではなく、感染を促進するための積極的な「パートナー」になっている可能性があります。

そこで研究チームは、この仮説を確かめるために「蚊の唾液にはウイルスの感染力を高める特別な仕掛けがあるのではないか」と考え、その具体的な仕組みを解き明かすための実験に取り組むことにしました。

蚊の唾液はウイルスの感染力を上げる成分が入っている

蚊の唾液はウイルスの感染力を上げる成分が入っている
蚊の唾液はウイルスの感染力を上げる成分が入っている / Credit:川勝康弘