このような背景のもとで、本研究は「どうすればエネルギーを完全に充電し、それを安定して長時間保てるか」という課題に正面から挑みました。
そのために研究グループが注目したのが「極低温原子」です。
極低温原子とは、原子をほぼ絶対零度(マイナス273.15℃)という極限まで冷やした特殊な原子のことです。
原子をここまで冷やすと、普段は見えない量子の性質が強く現れ、レーザー光で原子を自由自在に動かしたり、原子同士が互いに押し合ったり引き合ったりする力(相互作用)を精密に調整することが可能になります。
このような極低温の原子を利用すれば、従来の方法よりさらに安定で高性能な量子電池が作れるかもしれない――。
研究者たちは、この可能性を実現するための新しい充電法を探究しました。
極低温量子電池は量子トンネル効果で充電できる

それでは、研究グループが提案した「極低温量子電池」の仕組みを詳しく見ていきましょう。
この量子電池では「エネルギー井戸」と呼ばれるものが使われます。
「井戸」といっても、もちろん水が入っているわけではありません。
ここでいう井戸とは、原子が閉じ込められるような、エネルギーの「谷」や「くぼみ」のようなものをイメージしてください。
つまり、原子がこの「谷」に入ると安定し、外に出るためにはエネルギーを使って谷をよじ登る必要があるような構造です。
研究チームは、このエネルギー井戸をエネルギーの高さが異なるように三つ用意しました。
三つの井戸は階段のように並んでいて、一番下の井戸のエネルギーが最も低く、二番目、三番目と上に行くほど高くなっています。
最初に原子は最も低い一番下の井戸に閉じ込められており、これはエネルギーが空の状態、つまり「まだ充電されていない電池」を意味しています。
反対に、もし原子がエネルギーが最も高い一番上の井戸まで移動できたら、それはエネルギーが最大まで溜まった状態、「満充電」を意味します。