そのため、量子電池は従来の化学電池では達成できないほど高速でエネルギーを充電したり、大量のエネルギーを素早く引き出したりすることが可能になると考えられています。

こうした期待から、世界中で量子電池の研究が盛んになっています。

実際に理論研究では、複数の粒子を協力させることで充電速度が大幅に上がったり、従来とは比べものにならないほどの大量のエネルギーを一瞬で放出できる可能性が指摘されています。

また最近では、超伝導回路や分子を使った量子電池の小規模な実験が行われ、その基本的なアイデアが徐々に実証され始めています。

しかし、量子電池の開発には乗り越えるべき大きな課題があります。

最大の問題は「エネルギーが勝手に抜けてしまう」ことです。

量子の世界では、電池を充電してエネルギーを蓄えた後でも、そのエネルギーが充電器と電池の間を行ったり来たり振動してしまうのです。

これを専門的には「即時放電」と呼び、せっかく充電したエネルギーが安定して保てないことを意味しています。

わかりやすく例えるなら、コップに水を満タンにしても、小さな穴が開いていて水が少しずつ漏れ出てしまうようなものです。

この現象を解決しないと、量子電池は実用化が難しくなります。

そこで、研究者たちは「エネルギーが漏れない安定な充電方法」を見つけるために、さまざまな工夫をしています。

例えば、電池の内部にある原子を「ダーク状態」と呼ばれる特別な状態にすると、エネルギーが外に漏れにくくなることが知られています。

他にも、「断熱的(アディアバティック)」な操作という方法があります。

これは、ゆっくり丁寧にエネルギーを注ぎ込むことで、エネルギーが他の場所へ逃げてしまうのを防ぐ方法です。

こうした方法は理論的に提案され、一部は超伝導回路を使った量子電池の実験でもすでに実証されています。

また、超低温の原子を使った実験装置でも同様の方法が実現可能だと考えられています。