たとえばチューリングの停止問題では「あるコンピュータプログラムが有限時間で止まるかどうか」を判定する一般的方法が存在しないことが証明されています。
これは「どんなアルゴリズムよりも難しい問題」がこの世にあることを意味します。
同じように、数学者タルスキーは「ある形式体系の中では、その体系の“真理”を完全に定義することはできない」という定理を示しました(真理の不可定義性定理)。
また、数学者アルフレッド・タルスキーは、数学の理論が「これが真実である」と理論の中だけで完全に定義するのは不可能だという「真理の定義不可能性定理」を示しました。
これは、「何が本当に正しいか」を決定すること自体に、数学的な限界があることを意味しています。
さらに、現代の数学者グレゴリー・チャイティンは、もっと具体的な限界を発見しました。
彼の定理によると、ある理論が「正しい」と証明できる情報の量には上限(限界)があって、それを超えるほど複雑な問題になると、そもそもその理論では永遠に証明することも反証することもできなくなってしまうというのです。
つまり、どんなに頑張っても論理や計算だけでは絶対に超えられない境界線があるということです。
そして、実はこうした「論理の壁」は数学や計算の世界だけでなく、物理学にも大きな影響を与える可能性があります。
もし物理学の究極理論が本当にそのような「有限の公理+アルゴリズム」だけで構築されるとすると、先ほど述べたゲーデルやチャイティンが示した数学の限界も、物理学にそのまま当てはまることになってしまいます。
これはどういうことかというと、「物理学の究極理論であっても、どうしても証明も計算もできない現象や問題が必ず残ってしまう」ことになるのです。
今回紹介しているMir Faizal氏らの研究チームは、まさにこの点を深く掘り下げ、万物の理論に至る道として現在研究されている「量子重力理論」(重力を量子力学と統一する理論)を分析することにしました。