では、この結果は物理学に対して悲観的な未来を意味するのでしょうか?
研究チームはそう結論づけるのではなく、解決策として「メタ万物の理論」という新しい枠組みを提案しています。
メタ万物の理論とは、一言で言えば、理論の外側から「これは真だ」と認める『真理のスタンプ』T(x)と、計算に依らない推論を組み込むことで、通常のアルゴリズムでは扱えない現象にも道を開こうというものです。
簡単に言えば、計算や情報(ビット)だけでは描ききれない現実の姿を捉えるために、非アルゴリズム的な要素を理論に組み込もうというアプローチです。
研究では、これによって「計算による描写が破綻しても、科学そのものが破綻するわけではない」と述べられています。
さらに、この研究から導かれた興味深い帰結があります。
先述のように、純粋にアルゴリズムな理論では宇宙を完全に再現できないとすれば、この宇宙そのものをコンピューター上でシミュレーションすることもできないことになります。
実際、研究チームは「メタ万物理論を前提とすると、『宇宙はシミュレーションではない(”our universe is definitely not a simulation.”)』と論理的に結論づけられる」という大胆な見解を導き出しました。
コンピューターで動くプログラム(アルゴリズム)には、宇宙に含まれる“非アルゴリズム的”な部分が再現できないため、どんなに性能の高い計算機でも現実そのものを完全にコピーすることは不可能だというのです。
『万物の理論』崩壊の先にある、物理学の未来とは?

この研究は、物理学における「万物の理論」の捉え方に大きな一石を投じるものです。
もし万物の理論にさえ計算の限界があると広く認められれば、科学者たちはこれまでとは異なるアプローチを模索し始めるでしょう。