これは過去の研究と比べても重要な進展で、シータ波という「リズム」に合わせて、ほんの少しの新生ニューロンが活動することで記憶がしっかり脳に定着する仕組みが初めてはっきりと示されたのです。

また今回の結果から、脳の中で記憶を定着させること(記憶の固定)と、その記憶を後から取り出して使うこと(記憶の想起)が、まったく別の作業であることも明らかになりました。

つまり、新生ニューロンは「記憶を脳に保存する作業」にはとても重要ですが、「記憶を取り出す作業」には関わっていなかったのです。

これは例えるなら、夜の間に大切なことをノートにきちんと書き込んでおく作業と、翌日にそのノートを開いて中身を確認する作業が別の役割であることと同じです。

つまり、夜の間に記憶を整理しておかなければ、翌日になってその記憶を正しく取り出すことができないのです。

さらに、この研究から「タイミング」の重要性も改めて確認されました。

新生ニューロンは単に再活動するだけではなく、シータ波のリズムの中でも特に「波が上がるタイミング(上昇相)」に合わせて活動することが重要だったのです。

これはまるで、音楽に合わせてダンサーが正しいタイミングで踊るときに美しいパフォーマンスになるのと似ています。

正しいタイミングでの活動が記憶の整理を成功させるための必須条件だということが分かりました。

一方で、この研究が行われたのはあくまでもマウスの実験です。

人間でも大人になってから新生ニューロンが存在する可能性があると過去の研究で示唆されていますが、実際に人間でも同じ仕組みが働いているかどうかは、今後の研究で調べる必要があります。

もしこの新生ニューロンが記憶の固定に関わっているとすれば、こうした病気で新生ニューロンが減少することが記憶障害につながっている可能性があります。

そのため今回明らかになった仕組みは、将来的にアルツハイマー病などの記憶障害を治療する新しい方法の開発につながるかもしれません。